茂木外相「地域問題について会話」…ロシア外相は否定
プーチン氏の訪問を前に、日本とロシアの外交姿勢の隔たりを象徴する出来事もあった。
7月、フィリピン・マニラで開かれたASEAN関連外相会議の公式晩餐会で、茂木敏充外相がラブロフ外相と接触した。
茂木氏は翌日の記者会見で「二国間関係や地域情勢について話した」と説明した。2022年のウクライナ侵攻以降、両国外相の直接接触が明らかになるのは初めてだった。
日本側には、対ロ制裁下でも意思疎通の経路が残っていると示す狙いがあった。だが、ラブロフ氏はプーチン氏が択捉島を訪れた翌日の8月14日のテレビインタビューで皮肉交じりに反論した。
「全員が着席していた夕食会の最中に、後ろから肩を触られました。振り返ると日本の同僚が立っていて、『会えてうれしい』などと話しました。私は立ち上がる暇さえありませんでした。握手をして彼は席に戻った。これが『二国間関係や地域問題について話し合った』ということなのですか」
争点は接触の有無ではなく、その意味付けだった。ロシア側は、数十秒の儀礼的な握手を「対話」や外交成果に数えることを拒んだのである。
「安倍晋三氏はまったく正しい政治家でした」
同じインタビューで、ラブロフ氏は安倍氏についてこう語った。
「安倍晋三氏はまったく正しい政治家でした。日本の国益はロシア連邦との協力なしには確保できないということを理解していたからです」
一方、安倍氏の後継者たちについては「米国とともに日本の軍事化を開始することで国益を確保する必要があると考えている」と批判した。
ロシアが称賛しているのは、安倍氏その人だけではない。対ロ制裁よりも経済協力と首脳外交を重視した「安倍路線」である。
安倍氏を持ち上げれば持ち上げるほど、関係悪化の責任を、その路線を放棄した現在の日本政府に負わせることができる。ウクライナ侵攻ではなく、日本の対ロ制裁と防衛力強化こそが関係を壊した––––。そうしたロシア側の物語を補強するための「安倍礼賛」だった。
訪問前日、プーチン氏も安倍氏ら過去の日本の指導者とは「建設的な関係」を築いていたと振り返り、現在の日本政府が姿勢を変えたと主張していた。
プーチン氏の発言、択捉島への上陸、ラブロフ氏による安倍氏への称賛は、一連の対日メッセージだった。メドベージェフ氏に強硬な役回りを任せ、自らは最後の一線を越えないという時代は、完全に終わったのである。












