日本に向けた最も強い政治的メッセージ

8月13日、プーチン氏は択捉島の水産加工場を歩き、イクラを味わい、病院や学校を訪ねた。領有権について、改めて声高に宣言する必要はなかった。

ロシア国内の地方視察と同じように振る舞うこと自体が、日本に向けた最も強い政治的メッセージだった。

プーチン氏にイクラを振る舞った水産加工場も、一企業の成功を示すだけの施設ではない。ロシアが北方領土で進めてきた統治政策の縮図である。

その中心で利益と影響力を拡大したのが、「北方領土の帝王」ともいうべきアレクサンドル・ヴェルホフスキー氏だった。

旧ソ連軍の建設技術者として島に渡り、ソ連崩壊後にギドロストロイを興した。漁獲から加工、輸送、販売までを自前で担う企業帝国を築き、サハリン州選出の上院議員として政界にも足場を築いた実業家である。

ロシアは北方領土を軍事力で占拠した後、長い時間をかけて道路を造り、産業を育て、住民を定着させてきた。

占領から統治へ。軍事拠点から生活の場へ。ロシアが北方領土で進めてきた戦後統治戦略も、完成の段階に達していた。筆者には交渉の余地がもうほとんど残されていないようにしか見えない。

文/東銀座コンフィデンシャル