外務省関係者が「正直、すっきりした」と語った理由
このため、今回の訪問を知った日本政府関係者の受け止めは、驚愕というより「ああ、ついに来たか」だった。訪問は既に、時間の問題とみられていたのだ。
プーチン氏の訪問によって、安倍政権が進めた対ロ外交の限界も改めて浮き彫りになった。
プーチン氏と安倍氏は27回の首脳会談を重ね、経済協力をてこに平和条約締結と領土問題の進展を模索した。その象徴が、北方四島での共同経済活動だった。海産物の養殖、温室野菜、観光、風力発電、ごみ処理などが検討された。
しかし、日本は事業への参加がロシアの主権を認めることにならない「特別な法的枠組み」を求め、ロシアは自国法の適用を譲らなかった。両国の溝は最後まで埋まらず、事業はほとんど実現しないまま、ウクライナ侵攻後に協議も途絶えた。
外務省は当時から、経済協力を先行させる戦略に懐疑的だった。
安倍政権のブレーンだった今井尚哉氏は、経済協力をてこに北方領土交渉を動かそうとした。これに対し外務省は、日本が資金や技術を提供しても、ロシアに経済的利益を与えるだけで、領土問題では何も得られない恐れがあるとして、たびたびブレーキをかけた。
当時、外務省関係者はこう話していた。
「今、交渉を進めても2島、もしくはその半分しか返ってこないかもしれない。択捉島と国後島は未来永劫ロシア領として確定してしまう。それで良いわけがない」
今回のプーチン氏の訪問を受け、この関係者はこう吐き捨てた。
「正直、すっきりした。今井さんのやり方が否定されたわけだから」
島への支配を深めていた「ギドロストロイ」
その「すっきりした」という言葉の裏側にあるのは、外務省の懸念が現実になったという自負だけではない。北方領土返還への道が一段と遠のいたという、重い現実でもある。
日本が「共同」の仕組みを模索していた間にも、ロシアは島の統治を着々と進めていた。
その中心的な役割を担ったのが、ロシア政府の資金を取り込んだ巨大企業グループ「ギドロストロイ」だった。工場や道路を整備し、産業と雇用を生み出すことで、島への支配を深めていった。
日本は経済協力を領土交渉の呼び水にしようとした。しかし実際には、ロシアによる既成事実の積み上げを止めることができなかった。












