日本の不動産を「割安」にした通貨安政策

ブランドに惹かれがちな同胞の特性を利用し、異国の地でもしたたかに立ち回る、中国人のたくましさがうかがい知れる。

近年、中国からの不動産投資が増えたのは、低迷が続く中国経済や中国共産党の強権的な姿勢に見切りをつけて中国から逃げる「潤(ルン)」という中国国内の事情だけでなく、日本政府や日銀が推し進めた通貨安政策の影響も大きい。

過度な円安は不動産市場にも波及した。不動産情報会社マーキュリーのデータによると、アベノミクス前の11年から25年にかけ、東京23区の新築タワマンの平均価格は6105万円から1億7698万円と、2.9倍に高騰。一般市民の手に届かなくなってしまった。

一方、ドル建てで見ると、まったく違う光景が視界に入ってくる。年次の平均為替レートで換算すると、同期間の東京23区の新築タワマンは約77万ドルから118万ドルへと、54 %しか上昇していないのだ。円安は、海外から見た日本の不動産を割安に見せる副作用をもたらした。

不動産開発において、海外からの投資は不可欠なものだ。しかし、こと住宅分野においては、急激な円安は日本人の購買力を削り、外国人投資家に絶好の買い場を与える結果となった。26年に入り日本円は主要国の通貨に比べて全面的に弱んでおり、「お得感」は増している。

私はサンパウロに駐在していた2010年代後半、通貨危機のさなかにあったアルゼンチンを何度も取材したが、首都ブエノスアイレスの一等地の物件は自国通貨のペソではなく、米国の通貨であるドルで取引されていた。

1ドル=160円の為替相場で政府が自国通貨の防衛に追われ、外国人が割安だとキャッシュで物件を買い漁っていくような状況は、当時のアルゼンチンと重なる部分がある。

都心の不動産が外国人に買い漁られる状態となったのは、我々日本人が自らまいた種だともいえる。

文/外山尚之 写真/shutterstock

なぜ働いても家を買えないのか (日経プレミアシリーズ)
外山尚之
なぜ働いても家を買えないのか (日経プレミアシリーズ)
2026/7/10
1100 円(税込)
280ページ
ISBN: 978-4296126996
東京23区の新築マンション価格は10年で2倍。
資材価格の高騰がさらなる追い打ちをかける。
もはや、普通の社会人には家を買えないのか。
その深層に、取材記者が迫る!

「なぜ、私たちは働いても家を買えなくなってしまったのか――
この問いに対して、記者として見聞きした取材結果をまとめ、現在の日本で何が起こっているのかを共有できればという思いで筆を執った」
――本文より

【本書の主な内容】
-勃興する「タワマン転売ヤー」
-奔流するチャイナマネー
-「日本で一番警察官が来るマンション」
-集結する「タイガー・マザー」たち
-地方にも「ローカル億ション」の波
-タワマンを次々引っ越す「空中族」
-悪質な事業者の「稼ぎ場」に
-家賃が上がると、極右支持者が増える
-狭小住宅に住む事情
-高級老人ホーム戦国時代が到来
-五輪跡地が転売合戦の舞台に
-「地味駅」の変貌
-二度と市場に出てこない超一等地
-「荒川を越える」挑戦
-ジャイアンツ選手の成長を見守れる部屋
-住宅価格高騰が招く人手不足
-「母になるなら、流山市。」
-たそがれのニュータウン
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