単独登山では「間違いを指摘してくれる人」がいない

太田さんは、防ぐことができた遭難に共通する要因として、「単独登山」の増加も挙げる。

「単独登山が増えていることも、事故の増加につながっていると思います」

複数人で登れば、装備の不備や体力不足に仲間が気づき、互いに注意できる。同行者に迷惑をかけないよう、無理のないペースや慎重な判断を心がける効果もあるという。

「グループで登山をすれば、装備の不備や体力不足などに誰かが気づいて、注意し合えます。一方、単独では、登山について学ぶ機会も少なくなってしまうと思います」

単独登山そのものが、直ちに危険というわけではない。しかし、判断の誤りや体調の変化に気づいてくれる人がいないため、トラブルが深刻化しやすい。

2024年には単独で遭難した人が1311人おり、そのうち死者・行方不明者は179人だった。単独登山者に占める死者・行方不明者の割合は13.7%で、複数人で登っていた遭難者の5.9%より7.8ポイント高かった。

2026年7月、66歳男性が疲労と脱水症状からヘリ救助を受けた常念岳(写真/PhotoAC)
2026年7月、66歳男性が疲労と脱水症状からヘリ救助を受けた常念岳(写真/PhotoAC)
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登山アプリやSNSによって、山の情報を手軽に入手できるようになった一方、知識や経験を周囲から直接学ぶ機会が減っている可能性もある。アプリ上にルートが表示されていても、自分の体力や天候、登山道の状態まで自動的に判断してくれるわけではない。

便利な道具を持っていることと、安全な判断ができることは別問題なのだ。

「あれ?」と思ったら、まず止まる

では、登山中に「遭難するかもしれない」と感じたとき、どうすれば助かる可能性を高められるのか。

太田さんは、遭難の原因や置かれた状況によって対応は異なるとしたうえで、「小さな違和感を見過ごさないこと」が重要だと話す。

「登山前に下調べをしっかり行うことが前提です。そのうえで、登山中に『どうしようか』『あれ?』と思ったときは、いったん止まり、落ち着いて周囲を観察してください」

道が分からなくなったとき、焦って歩き続けると、現在地をさらに見失ったり、危険な斜面に入り込んだりするおそれがある。体調に異変を感じた場合も、「もう少しだけ」と無理を重ねるのではなく、立ち止まって状況を確認する必要がある。

ただし、立ち止まったあと、天候や現在地、残りの体力をどのように評価するかには、一定の知識や経験が求められる。

「これも、経験や知識が不足していると、なかなかできないことだと思います」

太田さんは、登山における最も大切な「装備」は、物として背負うものだけではないと強調する。

「登山装備で最も大切なのは、知識、経験、技術の3つです。この3つを備えることで、遭難する確率を限りなく下げることができます。それでも、ゼロにすることはできませんが」

高価なウェアや最新の登山アプリをそろえても、天候や体調の変化を読み取り、引き返す判断ができなければ、命を守ることは難しい。

山へ入る前の下調べ、その日の気温や湿度を踏まえた計画、十分な水分と装備、そして異変を感じたときに立ち止まる勇気。事故を防ぐために必要なのは、特別な裏技ではなく、そうした基本を繰り返し確認することなのだ。

取材・文/集英社オンライン編集部