旅のやり方が全然違う二人。だから面白い
山田 そうか、高野ももう五十九か。
高野 いま思えば、この齢でティグリス゠ユーフラテス川の源流へ強引に連れていかれるというのは本当、迷惑ですよね(笑)。
山田 あのね、君のいいところは、人の立場になって決して考えられへんところ(笑)。
高野 何それ? いつもいつも気ィ遣ってるじゃないですか(笑)。それにしても、けっこう長いプロジェクトでしたね。そもそもは三十年くらい前に隊長が立ち上げた環境NGOを手伝うことになって、二人でナイル川流域を四か月ほど調査したのが始まりですよね。
山田 そうそう、そのときに、いつか二人で一緒にナイル川を下ろうと。
高野 でも、その後隊長が体調を崩されて、引退状態になっていたのを、諦めの悪いぼくがしつこく四万十の隊長のもとへ通って……。きっと迷惑だったでしょうね。
山田 いやいや、迷惑じゃないよ。あれがなかったら、多分、あのまま四万十にいたと思うね。結局、旅の準備のため奥多摩に行って、高野先生に呼び出されると一緒に出かけていくということをやっていたわけだよね。
そして、二人旅へ大きく後押ししてくれたのは、高野にアフワール(イラクの大湿地帯)のことを聞いたことだね。あれだけでかい湿地がイラクにあることを知らなかった。南米やアフリカ、ヨーロッパのでかい湿地はよく知っていたし、行ったこともある。湿地って、鳥とか植物が豊富でね、いいとこばっかりなんですよ。その大湿地帯へ行こうと説得しに、三回か四回誘いに来たよな。
高野 三回行きました。結局、紆余曲折を経て、まずはアフワールへ行こうと。それが二〇一八年の一月ですから、ティグリス゠ユーフラテス川の源流域へ行く半年くらい前ですね(このアフワール紀行の模様は高野さんの『イラク水滸伝』に詳しく書かれている)。
山田 高野得意の「間違う力」で、トルコへ行く前に中国へも行った。
高野 練習をしに外国へ行かなきゃいけないと思って、同じ年の五月に中国の珠江に行ったんですよね。
山田 思い込んだらすぐに行くから大したもんだよ。
高野 でも、大きな間違いでしたね。ホテルにチェックインした途端に地元の警察官が押しかけてきた。
山田 どこに行っても見張られてる感じがあったよな。あのとき、もし川に舟を浮かべてたら、多分日本に帰ってこられなかった。
高野 舟を浮かべてたら、もっと面白いネタになっていたはず(笑)。ともあれ、そんなこんなでようやく念願のティグリス゠ユーフラテス川の源流域へ行くことになったわけですね。
ぼくは前からトルコの東部へは時々行ってましたけど、川を見るたびに思ってたわけですね、この川をずっと下って行ったら面白いだろうなって。陸の道路を通っていくときには、途中に村があってもそこに立ち寄るということはまずない。用もないのに止まらないじゃないですか。もし止まっても、何しに来たんだっていわれてしまう。でも、川だとそういうことはいわれないというか、ただ川に沿って流れていくだけですからね。
山田 車の旅人って、そこに住んでいる人にとったらけっこう暴力的なんですよ。でかい鉄の箱でやってくるわけだから。小さい頃、高知の田舎にいましたけど、車はまだ珍しくて、かっこいいんだけど、どこか偉い人が高みから見下ろしている感じなんだよね。川から行く場合は、常に見下ろされている側だから、警戒されない。逆に歓迎される。世界中の川でそういう経験をした。
高野 今回まず思ったのは、情報がない川に行きたいと。これまた高野の思い込み、こだわりだって隊長はいうと思いますけど、やっぱり情報がないところへ行きたい、どうなっているかわからないところへ行きたいという気持ちがものすごく強いので、ティグリス゠ユーフラテス川の上流域を選んだんですよね。ただ、情報がないからいつも先が読めない。
山田 先の読めないところで、思わぬ方へ行くというのは、長い付き合いでわかっているけど、大体そっち行ったらいかんだろうという危ない方に行くよね、見事に。
高野 最近気づいたんですけど、お掃除ロボットってあるじゃないですか。あれを見てたら、すごい自分の動きに似てるなって。
山田 どこが?
高野 いきなりガーッと走り出して、いきなりガンとぶつかる。ぶつかると急に向き変えて、またドーッと走っていく。かと思うと、一か所にしつこく留まったり。あれって、自分とすっごい似てるなって、思ったんですよ。
山田 俺の見解はちょっと違う。高野は本能的に、言葉は一所懸命やるよな。今度の旅ではクルド語を習ったように。でも、それ以外の調べはけっこう甘い。ほら、孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆からず」の真逆で、予め調べずに現場へ行くと、予期しないことが起きる。それが欲しいから、調べるとか練習とかをやらないんじゃないの。
高野 隊長のやり方ってぼくと全然違ってて、事前にすごく調べて、しかも一番高いところ、低いところ、あるいは一番端とかの要点を押さえるんですよね。それで、重要なポイントが五か所あったら五か所すべて押さえて、その後、だんだん解像度を高めていく。そういうやり方ですよね。でも、ぼくは隅っこから順番にやりたいんです。
山田 お互い探険部出身だから、わかってるだろうと思いながら、実はまったく話がかみ合わない。要するに我々にはそれぞれ養老孟司さんの「バカの壁」があるんですよ。だから面白い。あんまりにも合いすぎたら、何も起こらないし、退屈だからね。















