ボブ・ディランから受け継いだ“吐きすて”の衝動
宮本浩次は以前、テレビ番組のなかでこんなことを言っていた。
「ボブ・ディランが『ライク・ア・ローリング・ストーン』を、”ライカロリンストッ”って吐きすてるように歌うたび、涙がブワーって出てきたんだ」
初期のボブ・ディランは、“吐きすて”の歌の原点ともいうべき、新しいタイプのシンガー・ソングライターとして登場してきた。
確かにディランの特徴はビート詩人のように言葉を紡ぐのではなく、言葉をビートに合わせて吐きすてていくところにあった。それによって聴き手の気持ちを遠くまで運んでいって、どこかで颯爽とした気分にしてくれる効果があったのである。
英語による歌詞の意味はまったく分からなくても、何かしらの思いは確かに伝わってきた。それで自然に心地よくなったのは、言葉のつならりがビートとともに音楽になっていたからだろう。
日本における“吐きすて”の歌の系譜において、吉田拓郎はシンガー・ソングライターの代表的存在であり、そこへ同時代だった大瀧詠一や泉谷しげる、パンタなどがつながってくる。
1988年のエレカシのデビューアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』の1曲目に入っている『ファイティングマン』。おそらくはアマチュア時代に書いた曲だと思われるが、ディランを聴いて「涙がブワーって出てきた」という体験が、どこかしらに反映されているに違いない。
2017年に出した30周年記念のベスト盤『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』でも、『ファイティングマン』を収録曲に選んでいる。
「『ファイティングマン』『BLUE DAYS』などの初期の曲は、高校時代のやりきれない日々の繰り返しの中から生まれていて。『やさしさ』という曲もそう。<何をしても どこに行っても 体が重たくて、今日もいつもと同じ>って歌っていた。(中略) 誰もが一生懸命生きているけど、やがては無残に年老いていくんだという意識であるとか、初期の歌の中にそうした要素が入っていて、それが土台となっているのは間違いないですね」
テレビドラマ主題歌としてヒットした『今宵の月のように』の歌詞には、“吐きすてて”というフレーズが出てくる。
“吐きすて”の歌が持つ力には、個人の思いを呟いて吐きすてることで、聴く者の心に溜まっていたやりきれない思いなどを、いつのまにか洗い流してくれるという効果がある。
積み重なっていく日々のなかで、苦しい思いを独りで心の中に溜め込んでばかりいては、やがて耐えられなくなってしまう。だからこそ、その前になんとか楽になるために、友だちや肉親に悩みを打ち明けたりして、吐きすてていかなければならない。
それが“吐きすて”の歌が生まれる原点なのであり、シンガー・ソングライターの多くはそうした思いを作品にして、世の中に公開しているのだ。
もしも”涙がブワーって出てくる“歌に出会えたならば、自分で作品が書けなくても聴くことによって、あるいは一緒に歌うことによって心がいくらかでも楽になる。
『今宵の月のように』のプロデュースを引き受けたのは佐久間正英である。四人囃子やプラスチックスのベーシストとしても知られる、今は亡き名プロデューサーは当時のことをこのように語っていた。
「宮本浩次は歌が本当にすごいですね。その場で聴いていられる自分が幸せというか、感動します。(中略) 彼自身がそう言ってたんだけど、『言葉なんかどうでもいい、言葉を歌ってるわけじゃない』と。(中略) 僕が経験したロックバンドの中で、テクニカルな意味も含めて、宮本浩次の歌のうまさはダントツですね」
文/佐藤剛 編集/TAP the POP
参考・引用
「今なお燃え盛るファイティング・スピリッツ〜エレファントカシマシ・宮本浩次が語る、転がりつづけた30年の結晶( SPICE)
「佐久間正英 前進し続ける音楽家の軌跡~プロデューサー編 Vol.4/90年代のプロデュースその2~早川義夫、エレカシ、くるり(BARKS)














