円熟感のある「信念と歩み寄り」のバランス

日本代表はアイスランド戦、残り3分になったところで決勝ゴールを決め、W杯前の国内最後の試合に1-0で勝利した。5月31日のことだ。来日したアイスランドの選手たちは心身ともにコンディションもよく、意義のあるテストマッチとなった。

試合直後、エースの久保建英はヒーローインタビューでこう話した。

「最後に勝ち切りたいときに、ああいったフォーメーションに可変(変更)しようというのは、『最初から、みんなで共有できていた』ので、途中から入った選手が良い仕事をしてくれたなと思います」

『最初から、みんなで共有できていた』という何気ない一言に、実は大きな意味が込められていた。日本は<3-4-2-1>を基本布陣としていたが、0-0で推移していた終盤に<3-1-4-2>へと変更し、決勝ゴールが生まれた。

では、なぜ事前にチーム全体でプランを共有することが重要なのか。その答えは「信念と歩み寄り」のバランスにある。

久保建英と、長谷部誠コーチ JFA夢フィールドにて 写真/共同通信
久保建英と、長谷部誠コーチ JFA夢フィールドにて 写真/共同通信

「ファイヤー・フォーメーション」

時計を少し巻き戻そう。前回の代表活動——3月末の英国遠征での出来事が、その背景にある。

3月28日、グラスゴーのハムデン・パーク。スコットランド戦で日本は1-0の勝利を収めた。残り13分で<3-4-2-1>から<3-1-4-2>(いわゆる5-3-2)へフォーメーションを変更し、決勝点が生まれた。

メディアは「ファイヤー・フォーメーション」と盛り上がったが、ピッチに立っていた選手たちの感覚は少し違っていた。

右ウイングバックで先発した伊東純也は、試合後にこう明かした。

「5-3-2になっていたのを知らなくて、守備の時に全然はまらないなって思っていたら5-3-2でした」

誰かを責める口調はない。ただ、冷静に事実を言葉にしていた。変更からわずか2分後には横パスをカットされ、カウンターから決定的なシュートを許す場面もあった。攻撃のオプションを増やすための変更が、守備の連係に“ずれ”を生んでしまったのだ。

伊東は続けた。

「ミーティングで『こういう形になるかも』ということはやっていましたけど、練習ではやっていませんでした」

最前線でファーストディフェンダーも務める上田綺世も同様の違和感を抱いていた。

「守備のところがあまり噛み合わなかったので、そこから崩れないように……」この“伝わらなかった変更”という課題は、しかし放置されなかった。

スコットランド戦翌日、チャーター機でロンドンへ移動した日本代表は、イングランド戦に向けて2日間の準備期間を確保。イングランド戦前日の練習では、コーチ陣がスコットランド戦の課題をたたき台として提示し、選手たちと守備の動き方を具体的にすり合わせた。

練習後、伊東は手応えを語った。

「点を取りに行くときに、ウイングバックが(どこまで)プレッシャーをかけるか……そういう話し合い、確認はできたと思います。上手く確認できたので、良いオプションになったかなと思います」

鎌田大地もこう振り返った。

「課題が出た部分……『こういう時は、こうしよう』というのを提示されました。守備がハマっていなくても失点するようなシーンはなかったので。そこは気の持ちようというか、問題はなかったのかなと思います」

UEFAカンファレンスリーグ決勝に出場したことでアイスランド戦には招集されなかった鎌田大地 写真/Shutterstock
UEFAカンファレンスリーグ決勝に出場したことでアイスランド戦には招集されなかった鎌田大地 写真/Shutterstock

わずか数日で、フォーメーション変更時の共有不足は、選手とコーチ陣の対話によって埋められていった。森保一監督もJFA「Team Cam」でこのプロセスを評価している。

「コーチ陣も修正しながら毎日提示する。みんなもピッチ上でコミュニケーションを取る。コーチ陣と選手が分断するのではなくて……不具合があって『ちょっと、これ。どうかな?』というところを、ディスカッションしながらやってこれている」

この対話の積み重ねが、イングランド撃破への伏線となった。

森保監督自身は、フォーメーション変更の詳細を事前にすべて開示しない方針を持っている。試合中のスクランブル対応力を見たい、限られた準備時間の中で全てを網羅できない、相手を欺くための意外性を持たせたい——といった理由からだ。

しかし選手たちは、事前に共有してもらった方が頭と心の準備ができ、チームとしての連動性が高まると感じている。そこに生まれる認識のギャップを、対話で埋めていく。それが現在の日本代表のやり方だ。

そしてその路線は、5月31日のアイスランド戦でも継続されていた。