オリジナル版との最大の違いとは……

だが、岩下氏によれば、オリジナル版『権狐』はまったく違う。

「原作の『権狐』には、見返りを求める心はありません。最後の一線で、兵十が『お前だったのか』と気づいてくれたとき、原作のごんは『うれしくなりました』と結ばれます。一瞬でも心が通じ合った喜び。悲劇の結末であっても、そこには『魂の救済』があるのです」

兵十のもとへ栗などを届けるごん(『南吉オリジナル版ごんぎつね』作・新美南吉、絵・室田里香、制作・岩下修)より
兵十のもとへ栗などを届けるごん(『南吉オリジナル版ごんぎつね』作・新美南吉、絵・室田里香、制作・岩下修)より

では、岩下氏が考える『権狐』最大の魅力は何なのか。

「『いたずらぎつね』から『愛を知る存在』への、鮮やかな魂の変容ですね。南吉が15歳の日記に刻んだ『悲哀は愛に変る』という思想が、この物語の核心です。母親を失い、一人ぼっちになった兵十への共感から生まれる『哀しみ』。その哀しみが、単なる『いたずらへの後悔』を超え、兵十に寄り添いたいという『愛』へと昇華していきます。

兵十の影を踏みながら後をついていくごんの姿には、打算のない純粋な親愛の情があふれています。この『変容』のプロセスこそが、原作版だけが持つ最大の魅力だと考えています」

SNSでも、オリジナル版を初めて読んだ人たちからは、驚きと称賛の声があがっている。

「ごんぎつねのオリジナル版読んで泣いちゃった」
「ラストは特に、オリジナル版の方が断然良いな……」
「朝の通勤中にさらっと読むものではなかった。涙堪えるのに必死」

一方で岩下氏は、編集版が教科書に載り続けてきたことにも、一定の意味はあると話す。

「鈴木三重吉氏による洗練された文章により、長年多くの日本人の情緒を育んできたという実績があります。『まえがき』が短いため、お話の世界に入りやすい。方言が標準語に直されているので、方言を気にすることなく、どの地域に住む子にも読み進めやすいという良さもあります」

その一方で、やはりオリジナル版の良さを削ってしまったゆえの課題もあるという。