全財産を教団に寄付し、出家してしまった母親

加奈さんは、派手に遊ぶことで、教義と現実の生活との葛藤を忘れようとした。友達と週5日、カラオケに通った。買い物に行けば、友達が持っているものは全部欲しくなった。遊べば遊ぶほど、現世の生活を楽しんでいるという罪悪感は募っていくが、やめられない。金遣いは荒くなり、手持ちの金はすぐになくなった。

母の春代さんは仕事で日中忙しく、家を空けることが多かった。加奈さんは遊びに行く金がなくなると、春代さんの目を盗んで、金庫からお金を持ち出した。見つかれば当然怒られたが、気にしなかった。オウムにいた頃から、「お布施」といって、まとまった金額が動く現場を目の当たりにしていたからだ。

道場に行けば、イニシエーションを受けるたびに、在家の信者たちが教団にお金を払っていた。加奈さんの母親もそうだった。

教団施設の跡地を訪れた加奈さん(画像提供/NHK)
教団施設の跡地を訪れた加奈さん(画像提供/NHK)

「自分だってオウムにお金を使ってきたんだから、いいじゃん」

教団にお金をつぎ込み、最終的には全財産を寄付して出家してしまった母親の姿を見ていた加奈さんは、自分の行為をそう言って正当化した。

反抗期を迎えた加奈さんと母親の関係はこの頃、どこかぎこちないものだったという。

「いわゆる一般的な親子の信頼関係のようなものはすぐできるわけではなくて、ちょっと違う関係の親子だったと思います。どちらかというと、お世話係の大人と子どもの関係に近い感じです。今さら、『お母さん』と呼ぶのも恥ずかしいので、『春代』と名前で呼んでいました」

今までほとんど一緒に暮らしたことのない母親は、本当に自分に愛情を注いでくれるのだろうか。見捨てることなく、子どもとして𠮟ってくれるのだろうか。

あえて反抗的な態度をとって、母親の反応を試すようなこともあった。加奈さんの心は「試し行動と反抗期が重なって、すごくグチャグチャだった」という。それでも母親が見放すことはなかった。一緒に暮らし始めた中学生の頃の3年間で、少しずつ「他人感」は薄れていった。