なぜ、コロナ後に高インフレが起こったのか

2020年代初頭、アメリカ、そして世界は、まるで眠れる巨人が目を覚ましたかのような、猛烈なインフレの渦に巻き込まれました。スーパーマーケットの値札は毎週のように書き換えられ、ガソリンスタンドの表示価格は天井知らずに上昇し、人々の生活を根底から揺るがしました。

その勢いは実に40年ぶりの歴史的なレベルに達し、多くの専門家が「もはやインフレは起こらない」としていた予測を覆しました。

この物価高騰は、なぜ起きたのでしょうか。そして、なぜ世界で最も洗練された経済分析集団であるはずのアメリカの中央銀行、FRB(連邦準備制度理事会)ですら、その本質を見誤ってしまったのでしょうか。

ここでは、この歴史的な大インフレの正体を、その原因から社会への影響、そして私たちの未来がどう変わっていくのかまで、深く、そして多角的に解き明かしていきます。

最悪のタイミングで噛み合ってしまった歯車

40年ぶりの大インフレをなぜ世界は予想できなかったのか…FRBですら見誤った“歴史的誤算”の正体_1
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2022年6月、アメリカの消費者物価指数(CPI)は前年同月比で9.1%という衝撃的な数字を記録しました。これは、オイルショックの記憶も生々しい80年代初頭以来の、異常な高水準です。

この歴史的な物価高騰は、「需要」「供給」、そして「人々の心理」という、経済を動かす複数の歯車が、最悪のタイミングで噛み合ってしまった「パーフェクト・ストーム(完璧な嵐)」だったのです。

嵐の震源地は、20年に世界を襲った新型コロナウイルスのパンデミックでした。この未曾有の危機に対し、アメリカ政府とFRBは、経済が完全に停止するのを防ぐため、歴史上例のない規模の対応を取りました。

その対応とは、「政府による未曾有の財政出動」と「FRBによる強力な金融緩和」という二本の柱からなります。

政府は全国民への現金給付や失業保険給付の大幅な上乗せといった、国民の懐に直接お金を届ける政策を次々と実行しました。それと並行してFRBは政策金利を実質ゼロまで引き下げ、市場から大量の国債などを買い入れる「量的緩和(QE)」で経済を後押ししたのです。

しかし、その善意の政策が、後にインフレという怪物を育てる土壌となってしまったのです。具体的には、次の三つの巨大な力が同時に経済に作用しました。

一つ目は、「過剰な需要」。
二つ目は、「供給網の破壊」。
そして三つ目が、「労働市場の激変」。

「欲しい」という力(需要)は有り余るほど強いのに、「作る・運ぶ」という力(供給)はズタズタに破壊されている。この需要と供給の巨大なミスマッチが、40年ぶりの物価高騰を引き起こした根本的な構図でした。

それは、アクセルを全開で踏み込みながら同時にブレーキが壊れてしまった車のような状態だったのです。しかし、当時のFRBは事態を楽観視していたのです。