予算を縛る「軍事費」と「社会保障費」
アメリカの国家予算、すなわち歳出の内訳を詳しく見てみると、まるで聖域のように扱われ、削減することが極めて難しい二つの巨大な支出項目が存在することに気づきます。
それが「軍事費」と「社会保障費」です。この二つが歳出全体の半分以上を占め、国家財政をガチガチに固めてしまっているのです。
まず「軍事費」について。アメリカは自他ともに認める「世界の警察」として、世界各地の紛争に介入し、同盟国を防衛する役割を担ってきました。そのためのコストは凄まじく、アメリカ一国の軍事費だけで、世界全体の軍事費総額の約37%を占めると言われます。
これは、軍事費ランキング2位から10位までの国々を全て合計した額を上回る規模です〈図1―9〉。冷戦終結後に一時、軍縮ムードが高まりましたが、その後の対テロ戦争、そして近年の中国との覇権争いやロシアによるウクライナ侵攻といった「地政学的リスク」の高まりを受け、軍事費は高止まりを続けています。
また、どの政権にとっても軍事費の削減は政治的なタブーに近いのが現実です。「世界の警察」を自任するアメリカでは、軍事力の維持は国家の威信そのものです。
軍事費を削減すると国内外の敵対勢力につけこまれると考える有権者が多いため、「国防をおろそかにする弱い大統領」という批判は致命傷になりかねないのです。
さらにやっかいなのが「社会保障費」です。
これには、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」、低所得者向けの「メディケイド」、そして日本の国民年金や厚生年金にあたる「公的年金制度」などが含まれます。これらの費用は、法律によって支出が定められている「義務的経費」に分類されます。
つまり、政府が毎年「今年はこれくらいに抑えよう」と裁量で決められるものではなく、有資格者が増えれば自動的に支出が増えていく仕組みなのです。
特に、戦後のベビーブーマー世代が次々と退職し、高齢者人口が急増しているアメリカでは、医療費や年金の支払いが毎年、雪だるま式に膨れ上がっています。
「地政学的な理由で減らせない軍事費」と「人口動態によって自動的に増え続ける社会保障費」。この二大経費が国家予算を圧迫し続けています。
その結果、財政の自由度は著しく奪われ、新たな政策課題に取り組むための財源を、結局はさらなる借金(国債発行)に頼らざるを得ません。この悪循環からアメリカは抜け出せずにいるのです。
さらにそれだけではなく世界経済全体が絡む、ある問題もあります。













