古いほど坪単価が高くなるヨーロッパの住宅
塚原 これは今回の本で書きたかったことの一つでもあるんですけれども、僕は資本主義を否定して、「手しごと大国」とか「手しごとの世界」をつくっていきたいみたいな話をしているわけではないんです。資本主義の便利なところは享受しながら、行き詰まってしまったシステムなどに対しての潤滑油として、「工藝」とか「手しごと」という考え方があるんじゃないか?ということを伝えていきたいんです。
今はこれまでよりはるかに経済というかマーケットの動きがあるような気がしていて、そのうちの2つぐらい事例を挙げると、ひとつがやっぱり「世界一美しい会社」と呼ばれているブルネロ・クチネリだと思うんです。彼らの「人間主義的資本主義」という、人のためにものづくりをする、人のために経済性を拡大していくという在り方そのものが、世界的にも受け入れられつつあるというか。
ひと昔前だと、明らかに企業の存在意義というのは、「株主利益の最大化」に行き着いていたところが、最近ではステークホルダーだったり地域だったり職人さんだったり、その企業に関わっている人のために活動していく。そのことで結果的に株主利益が最大化されるという構造が徐々にできてきている。これは徐々に徐々に世の中が変わってきている、すばらしい事例かなと思っています。
もうひとつは、菱田さんも最近一緒に作品をつくられたアーティスト、長坂真護さんの例です。先進国がガーナに廃棄したゴミをアートに昇華させて、その売上でガーナ人を雇用する活動を進めているのですが、これもガーナの社会課題があまりにも重くて、でもその課題が重いほど、てこの原理のようにレバレッジがかかって、彼の作品の経済価値が上がっていく。
そしてその利益がガーナに還元される循環が生まれている。これもある種世の中が変わってきているといいますか、これまで見過ごされてきたものに光が当たることによって、結果的に経済性がついてきている。この動きがすばらしいと思うんです。
その点でいうと菱田さんがよく「古る美る(ふるびる)」美しさっておっしゃっているんですね。これ僕、すごい好きな言葉なんですけれども、時間が経つほど美しくなる「経年美化」の思想、それにも経済性がついてきていいんじゃないかと思っているんです。
面白いのがヨーロッパの一部地域では、古い物件ほど不動産の価値が高いんですよね。もちろん、新しい物件が立ちづらい条例や制限も影響していますし、さらにその物件が「良い物件であれば」という条件がつきますが。
逆に日本では、古ければ古いほど坪単価が下がっていくじゃないですか。リノベーションしてビルの価値を上げましょうみたいなビジネスが最近出てきていますけど、東京の不動産市場とヨーロッパの不動産市場って価値観が少し違うのかなって。
「10年経ったら坪単価がこのぐらい下がって、賃料相場はこれぐらいです」みたいな今の資本主義の規定で物をつくっていくと、古びる美しさを醸し出せる素材なんて到底使えないんですけど、本質的にすばらしい素材ですばらしいものを建物ごとつくれたとしたら、「減価償却、耐用年数、利回り幾ら」みたいな経済の常識を跳躍できるような気がしていて。
これまでだったら「1億円なら毎年1000万円利益を出して、10年利回り10%で回収」みたいな感じだったのが、もしかするとこの先、「職人の手しごとで良質な素材を使った建物は10年前より価値が増している。だから坪単価としてより高く貸せる」というところまで経済価値が追いついてくると、かなり様子が変わってくると思うんです。
これまでの利回り計算や市場相場感では使えなかった建築材や、入っていかなかった手しごとが入ってくると思うので。
徐々に徐々に世の中の資本主義市場観みたいなものが変わっているなかで、「職人さんの手しごと」というものが改めて、経済の循環に組み込まれるようになる。我々KASASAGIが、よりスムーズにその橋渡しをできるようになれればと思っています。
菱田 塚原さんがおっしゃるように、今後、職人の手しごとを発展させていくのに必要なことは、資本主義の経済を回すことだと思いますね。手しごとに本来あるべき価値を見出すことができる方、その人たちが時代をつくってくれると思っています。私はその大きい時代まではつくれなくて、私は私の範囲でしかつくれないので、たぶんそのような大きな仕組みをつくるのは、塚原さんのような方かなと思っています。工務店業界の橋渡しは、私がやってみますけど。
たとえば日本の建築業界を見ると、「大工と設計者って何でこんな混じらないの?」とか、「現場に経営者って全く混じらないの?」とか、なんでそんな不便なことみんなやってるの?と思ってしまうんです。
自分は設計の業界も、職人の業界も、経営の業界も見てきているので、それぞれの問題解決の方法を持っています。たとえば職人が抱えている問題も、経営のノウハウで解決できるみたいなことがよく見えるんですよ。今の建築業界にはその垣根を越えている人がいないので、私なりにまだまだ未熟ですけど、ひとつずつ垣根を越えながら、職人として、経営者として、もっとフリーな建築の世界をつくれないかと模索しているフェーズです。














