まんま志村けんのババアコントだ

「あら、お客さんかい? ここでタバコでも吸って待ってね」

病院の診察室にあるような細長いマッサージベッド、アパートの浴槽程度の広さしかない風呂。声の主は、推定65歳でTシャツに短パン、短髪の老女。まさか……。

10分後、当然のようにその老女がプレイ相手として現れた。案内された部屋は、病院の診察室にあるような細長いベッドと風呂、ひとり用サウナがあるだけで、殺風景を絵に描いたような場所だ。

「あとでいいから、4000円ちょうだいね」

全裸になり、風呂に入ったあと、普通の風呂椅子(スケベ椅子ではない)に座るよう指示される。タオルで全身をゴシゴシ洗われる。髪の毛もゴシゴシ洗われる。丁寧なのは結構だが、老女は着衣のままだ。

写真はイメージです(写真/PhotoAC)
写真はイメージです(写真/PhotoAC)

ベッドで仰向けになるよう言われ、老女がマッサージをはじめた。そして、ローションを局部に塗りたくり、オスペ——つまり手コキ……。

「本番じゃないんだ」
「ウチはトルコよ。当たり前じゃない」

無呼吸状態でシコシコし続けるから、老女が変な吐息を漏らす。まんま志村けんのババアコントだ。

「なかなか出ないねぇ。いつも遅いの? じゃあアレ持ってきてあげるよ」

オスペをはじめて3分、何やら厚手のビニール袋から数冊のファイルを取り出す老女。見れば、昭和感たっぷりな裏本のカラーコピーだ。つまり、これで興奮しろってことか。何か、すごいわ。

いったい何だろう、この店。本来なら単なるトホホ体験だが、温泉とマッサージですっかりリフレッシュし、この値段ならアリだと思いはじめる自分がいる。時空を超えたトルコ風呂体験は、ソープランド以上の魅力があったのだ。

残り時間はわずか。お姉さん、ちょっと話を聞かせてください。

「昔はこのビル、健康ランドみたいなレジャー施設だったのよ。いまは喫茶もやってないし、個室も浴槽が壊れてから3つしか使っていないわ。だから女の子も3人だけ。いちばん若くても40代後半よ」

写真はイメージです(写真/PhotoAC)
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何でも、営業は朝の6時半から夕方6時までで、毎週水曜日が休み。遊び方は風呂に浸かるだけでもOKだが、これだと老女の取り分はなし。オスペをしてはじめてカネになるという。

「これでも結構お客さんが来るのよ。前は芸能人もよく来たんだから」

聞けば、下は50歳から上は90歳まで、好事家たちが通い詰めるという。ウソかホントか、かの有名なプロゴルファー・中嶋常幸も常連だったというから驚きだ。

「地元の男はほとんど来ないけどね。まあ、連中は少々値段が高くても吉原に行くわね」

そういえば、タイマーとかもないな。

「ホントは60分だけど、いつも時間はだいたいなのよ。それにアナタ、発射しなかったでしょう。2000円に負けてあげるわ」

写真はイメージです(写真/PhotoAC)
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気づけば入店から1時間半が過ぎていた。別れ際に名前を聞いた。すると老女は哀愁たっぷりに言った。

「3番。ここの女の子は部屋番号で呼ばれるの」

文/高木瑞穂

ルポ 風俗の誕生
高木 瑞穂
ルポ 風俗の誕生
2025/12/24
1,980円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4909979957

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「男の夢」の起源を巡る旅

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風俗ルポ、といってもよくある体験記ではない。
風俗業態の数あるモノやジャンルについて、
その「はじまり」から「現在」までを歩き、
ときには資料で補いながら綴ったものだ。

きっかけは「売春島」取材だった。
三重県志摩市の沖に浮かぶ渡鹿野島、
通称「売春島」の成り立ちを調べていて、
はじまりを探る楽しさに気づいた。

それは驚きの連続だった。
そこには当事者しか知らない事実と計算、
そして戦いがあったのだ。(「はじめに」より)

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