「カモン」騒動の詳細
テニスの全豪オープンは、オーストラリアのメルボルン市で開催される、シーズン最初の四大大会だ。
“移民の国”を反映するように、大会会場には多種多様な人々が集う。各国のファンたちが、熱狂的な応援合戦を繰り広げるのも、真夏のメルボルンの風物詩。『グランドスラム・オブ・アジア/パシフィック』を謳っていることもあり、アジア圏の観客が多いのも、この大会の特色だ。
その全豪オープンで2019年と2021年に優勝している大坂は、まさに大会理念を体現するチャンピオンだと言える。カリブ海の小さな国ハイチと日本にルーツを持ち、活動拠点はアメリカ。2023年に第一子を出産した、2歳になる娘の母でもある。それらカラフルな要素を備える彼女は、玉虫のように、その時々で異なる輝きを放つ。見る人によって“大坂なおみ像”が異なるのも、恐らくはそのためだ。
そんな大坂が最初に今大会の話題をさらったのは、開幕3日目のセンターコート最終試合。アリーナに姿を現した彼女の、独創的なファッションが理由だった。手にはラケットバッグの代わりに傘が握られ、蝶をあしらった白いハットからは、顔を覆うベールが揺れる。
試合勝利後のオンコートインタビューでは、「クラゲと、蝶がモチーフ」だと明かした。蝶をデザインに用いたのは、5年前のこの大会で、試合中に顔に蝶がとまった“アクシデント”に由来するという。
そしてクラゲは、娘に読み聞かせた絵本がインスピレーションの源泉だ。「海中などの未知なる世界」に、深く感銘を受けたためだという。
このファッションはネット界隈を賑わせたが、好意的な反応が多かった。2日後の大坂の2回戦時には、ベール付きのハットや傘を身に着けた“コスプレ”ファンも登場したほどだ。
実は大坂サイドは、2か月前には全豪オープン首脳陣に新ファッションの意向を伝え、相談を重ねてきたという。大会側が、そのお披露目の舞台に1万5千人収容のメインアリーナを用意したのは、大坂の話題性や存在価値を認めているからに他ならない。
初戦の話題が試合開始前に集中したのに対し、2回戦のソラナ・チルステア戦では、試合終了直後の出来事が論争を呼んだ。ことの発端は、最終セットのゲームカウント4-2の場面だ。
チルステアのファーストサーブとセカンドサーブの間に、大坂が自分を鼓舞すべく「カモン」と声を出したことだった。チルステアは主審に「あれは(ルール的に)いいのか?」と小さく抗議するも、主審は「サーブのモーションに入る前だから問題ない」と説明するにとどめた。そのまま試合は進行し、結果的に大坂がこのゲームをブレークしたことで、事実上の勝敗は決した。
両者の間に緊張が走ったのは、試合後の握手の時。笑みや言葉を交わすことなく、握手と同時に足早に去るチルステアに、大坂が何か声を掛けた。踵を返したチルステアは、険しい表情で言葉を返す。テレビ中継のマイクは、「あなたは、フェアプレーが何たるかを知らない!」というチルステアの声を拾っていた。













