宮島さんのデビューのきっかけは思いきって書いた「中学生の話」

宮島 『金環日蝕』を読んで、阿部さんてこんなミステリーを書かれる方なんだと驚いたんです。経緯を聞いてなるほどと思いました。
 私の場合は、デビュー前に、自分は世の中にどんな小説があるのか全然知らないなと思って、ひたすら小説を読みました。図書館でいろんな賞の過去の受賞作を借りたりして。分析するというより、どういうものが受賞しているか知るためでした。そのなかで、R-18文学賞の受賞作がどれもすごく面白かったんです。書き手に同世代の女性が多いせいか、書かれている悩みを自分に引き寄せて切実に考えられたので、それで私もR-18文学賞を獲りたいと思ったんです。

阿部 そして『成瀬は天下を取りにいく』の巻頭の「ありがとう西武大津店」でR-18文学賞の大賞を受賞されて。

宮島 R-18文学賞は一回に三編応募できるんですね。毎回、自分と歳の近い女性を書くことが多かったんですが、四回目の挑戦の時に、これまでとちょっと違うことをしようという気持ちになって、三編のうちの一編を思いきって中学生の話にしたんです。それが「ありがとう西武大津店」でした。今の自分が十代の子を書けるのかと思ったけれど、コバルトで「二位の君」で入選していたことが後押ししてくれました。その時のR-18文学賞も三浦しをんさんが選考委員をなさっていたので、本当にご縁があるなと思いました。

阿部 成瀬秘話が聞けて楽しいです(笑)。受賞後にシリーズ化が決まったのですか。

宮島 応募の段階では入選するかも分からないから、そういうことに意識は向いてなかったです。受賞して連作にしようと言われた時も、私は『成瀬は天下を取りにいく』一冊で終わると思っていたんです。そうじゃなかったら一作目で主人公を中二から高三まで成長させないですよ(笑)。成瀬の友達の島崎も引っ越しさせていなかった。

阿部 成瀬と島崎の話は永遠に読んでいたいです。続編の『成瀬は信じた道をいく』では島崎が引っ越して二人の間に距離ができていたけれど、だからこそのお話になっていて、すごく面白かったです。

宮島 三冊目の『成瀬は都を駆け抜ける』では、大学生になっています。

阿部 楽しみです!

──宮島さんはデビュー作でいきなり本屋大賞を受賞されたわけですよね。

宮島 業界のことを何も分かっていないまま神輿に乗せられていて、最近になってようやく冷静に周りが見えてきた感じです。それと、今後何を書いても、売り上げ面では『成瀬は天下を取りにいく』を超えられないなという感覚があるんです。それが嫌とまでは思わないけれど、今後どうしていくか、ちょっと悩みではあります。

阿部 私もいろいろ模索してきましたが、結局、書けるものしか書けないなと思っていて。

宮島 ああ、分かります。私もそう。

阿部 思いついたものを誠心誠意書いていけばそれでいいんだって、最近思うようになりました。あと、売れることはいいことですよ(笑)。宮島さんの『婚活マエストロ』も『それいけ!平安部』もすごくよかったです。「平安部」の安以加(あいか)ちゃんの「あなや」と「いみじ」を使い分けているところが可愛かったし、蹴鞠(けまり)大会も面白かったです。

宮島 ありがとうございます。蹴鞠をやるのは決めていたんですけれど、あんなスポ根ものみたいになるとは思わず……。

阿部 それが面白かったんです(笑)。

書き進めながら物語が変わっていく〝ライブ感〟

──阿部さんの本屋大賞受賞作『カフネ』は、家事代行サービスに関わる二人を中心に、食べることについて切実なテーマがこめられていますが、出発点はどこにあったのですか。

阿部 あれは新型コロナが物語を変えたところがあります。最初は年の差のある女の人二人が、わいわいやっている話を考えていたんですけれど、リアルな世界がすごく苦しくなってしまったので、物語の中だけでもなんとかいい方向に転がせられないかなと思いました。食べるということは良くも悪くも我々と切り離せないものなので、あえてテーマに取り上げたところがあります。

宮島 物語の最後のほう、ああ、こんな展開になるのか、と思いました。

阿部 あれはかなり改稿しました。私はプロット詐欺師で、いつも最初に編集者に見せたプロットと、最終的に出来上がった小説はだいぶ中身が違ってしまうんです。

宮島 書き進めていくうちに物語が変わっていくんですね。それは、ライブ感があるってことですね。

阿部 わあ。ライブ感って、すべてをいい感じに美しく昇華してくれる言葉ですね。私、ライブ感、大事にしていきます。

宮島 作中に豆乳そうめんとか、いろんなレシピが出てきますよね。

阿部 あれは想像上の料理だったんですが、講談社さんがプロの方に頼んでレシピ冊子を作ってくれました。プロの方はすごいです。

宮島 タイトルもいいですよね。私、実際に「カフネ」という言葉使ってますよ。子供の頭をなでて「カフネ」って言ったりして。

阿部 素敵。最初の頃、担当編集さんが「カフネ」を流行語にすると言って結構使っていたんですけれど、最近とんと、使っているところを見ていません。