京都の権力者、秀吉

最後に、「地域」について考えておきたいと思います。秀吉は京都の人、京都の権力者でした。そのことは強く認識しておくべきだと考えます。

秀吉が「中国大返し」から帰ってきたのち、本拠地として考えたのは、石清水八幡宮の場所にある城(山崎城)でした。その城を本拠に織田家中との戦いを戦ったわけです。その後に大坂に大坂城をつくって移ります。

大阪城 写真/shutterstock 写真はイメージです
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あれだけ大きな大坂城が非常に短い期間でできているところを見ると、おそらく信長のときに基礎工事は終わっていたのでしょう。信長としては、やがて安土から大坂へと本拠地を移す予定だった。秀吉はその工事を完成させて、大坂を自分の本拠地とした。

しかし彼はすぐに京都に聚楽第という政庁を建てる。聚楽第は城ではありませんが、秀吉はここを拠点として、政権運営を行うようになります。

さらに聚楽第の次に、秀吉は伏見城をつくって移ります。ここは「伏見城」というから誤解されるのですが、実質的には「京都城」なのですね。この城は隠居所として、贅を尽くしてつくられました。

秀吉といえば大坂、亡くなったのも大坂城というイメージがありますが、実は亡くなったのは伏見城。ずっと京都にいて、京都で亡くなっています。彼は京都の人、京都の天下人でした。秀吉は京都の周囲に御土居という、防塁と堤防も築いています。現在の京都の範囲を確定させたのは秀吉なのですね。

そこで考えなくてはならないのは、「京都の天下人」は伝統的にどのような意識を持ってきたのか。これは実にシンプルで、古代の天皇から秀吉にいたる天下人たちの意識は、当然ですが、「畿内中心」でした。

日本の権力者とは、要するにずっと京都の人。一時期、鎌倉に政権を置いた源頼朝がいましたが、この政権はあくまで京都の朝廷勢力に対するアンチテーゼでした。もし朝廷と対立する武士の政権を畿内につくろうとしていたら、すぐに潰されていたでしょう。当時の関東は都から見て辺境です。荒くれものの集団が辺境に集っていたからこそ、彼らは存在を見逃してもらうことができました。

しかしやがて150年の時を経て力をつけると、武士たちは京都に移ってしまいます。実力がないから鎌倉にいただけであって、力さえあれば都に行きたかったのですね。だから足利尊氏の段階になると、武士の政権も京都に移った。やはり京の都の求心力は、非常に強力なものがあります。

ただし信長の場合は少し違っていて、この人はそこまで京都に執着はなかったようです。秀吉は、そこはわかりやすくて、京都に行きたい人でした。田舎者でスレていないだけに、京都への憧れが強かったのでしょう。

『豊臣の兄弟 秀吉にとって秀長とは何か』(河出新書)
本郷和人
豊臣の兄弟:秀吉にとって秀長とは何か
2025/10/28
990円(税込)
200ページ
ISBN: 978-4309631943
本能寺の変で信長が討たれた直後、奇跡の「中国大返し」を果たしてみせた秀吉。
彼はなぜ、天下人になることができたのか――?
そのかたわらに、弟・秀長がいたことの意味とは――?
生い立ちから、華々しい戦績をもたらした思考法、秀吉の非常識ぶり、それを支えた秀長の手腕まで……
東京大学教授が、天下を獲った兄弟の実像、豊臣政権の本質を徹底解説。


【第一章 秀吉の何が、他の武将と違うのか】
若き秀吉の放浪時代/不明の人、秀吉/「家」が理解できない秀吉/武士の原理に従わない秀吉/デスクワークを重視する秀吉/異次元の人材評価/常識が通用しない秀吉/「血」と「家」は別……

【第二章 戦う秀吉は、なぜ強かったのか】
墨俣一夜城の伝説/竹中半兵衛は本当に名軍師?/近江長浜時代の大失敗/信長が変えた「戦争」の意識/戦うのも人間である/「兵站」にもとづく秀吉の戦術/「本能寺の変」は必然だった?/軍隊移動の名手、秀吉/秀吉の非常識が、光秀の常識を覆す/秀吉の戦術を逆手に取る家康/なぜ秀吉は大盤振る舞いするのか……

【第三章 天下人 with 秀長】
秀長、歴史に登場/戦国の、リアルな土地感覚/当時の百万石は百万石もない!? /まだあった「領有」の曖昧さ/本能寺から天下人へ。秀長の大功績/兄を支えた秀長の能力/難治の国を見事に統治/行政、内政のスペシャリストたち/秀長の健康悪化と有馬温泉/家康上洛。外交担当者としての秀長/秀長はお金に汚い?/大和大納言家の終焉……

【第四章 豊臣政権とは何だったのか】
秀吉がふたりいる?/兄弟が並び立つための条件/秀吉は徹頭徹尾、軍事の人/秀吉家臣団の報酬/家康の家臣団は古典的/家康にもいた三成タイプ/「家」のヴィジョンがない秀吉/天下人 without 秀長/京都の権力者、秀吉/天下布武には興味がない/大陸進出の真実……
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