国の成長モデルが次世代を養えなくなったことの帰結

ここで言うコウ老族は、日本でかつて揶揄的に語られた「パラサイト・シングル」とは性格を異にする。自立しないという選択ではなく、自立できない構造に押し込められた結果であり、雇用と住宅という二つの出口が同時に塞がれた社会で、若者が生き延びるために選ばされた姿に近い。

なぜ中国の若者は働かないのか…習近平がひた隠す「中国経済の不都合な真実」 愛国を語る富裕層ほど、子には海外教育_2

これは若者の甘えの物語ではなく、この国の成長モデルが次世代を養えなくなったことの帰結である。

こうした環境で、最も早く動いたのが、皮肉にも最も条件に恵まれた層だった。上位大学を出て、理工系や金融、法務といった国際的に通用するスキルを持ち、語学力があり、家庭に一定の資金余力がある若者ほど、国内に将来像を描けなくなった。彼らが留学を選ぶ理由は理想主義ではない。

キャリアの連続性を確保するための、きわめて現実的な脱出口としての選択である。一度海外で就職すれば、戻る理由は急速に薄れていく。

ここで、香港の金融関係者の見方を重ねると、議論はより立体的になる。

彼らは、中国経済が不動産評価の急落、消費の低迷、若者失業、敵対的な外部環境という深刻な問題に直面していることを認めつつも、バイオテクノロジー、ロボット工学、AI、再生可能エネルギー、EVといった分野では、中国はすでに世界クラスの地位を築いており、これらの産業が崩壊することなく経済を下支えできると頑なに信じている。

世界的産業があっても若者が働けるとは限らない

また、ドナルド・トランプの「取引としての政治」が、地政学的緊張を一時的に緩和し、中国経済に呼吸の余地を与えているという見方もある。

この見解は部分的には正しいが、決定的に欠けている視点がある。それは、これらの先端産業が、若者をどれだけ吸収できる雇用装置になり得るのか、という点だ。

AI、ロボット、EV、再生エネルギーはいずれも資本集約型であり、必要とされる人材は高度に選別され、人数は限られる。かつて不動産と建設が担っていたような、裾野の広い雇用吸収力は持ち得ない。

世界クラスの産業が存在することと、若者が働ける社会が成立することは、まったく別の問題なのである。

トランプの取引的姿勢(ディール)が、中国に一時的な外部環境の改善をもたらす可能性はある。しかしそれは、国家モデルの再設計を先送りする猶予を与えるに過ぎず、若者雇用という構造問題を解決するものではない。むしろ、その猶予がある限り、改革は遅れ、若者の「静かな排出」は続く。