「『一度叱っただけで子どもが泣いた』という事実だけで虐待と決めつけることはありません」

ここで改めて「児童虐待」について確認したい。こども家庭庁によれば、以下のように定義されている。

身体的虐待(殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する)など

性的虐待(こどもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする)など

ネグレクト(家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない)など

心理的虐待(言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、こどもの目の前で家族に対して暴力をふるう、きょうだいに虐待行為を行う)など

これら児童虐待の4つの分類は2000年に公布された「児童虐待の防止等に関する法律」で定義された。その後も2015年に児童相談所全国共通ダイヤル「189」の運用を開始するなど、国は児童虐待防止に向けた体制の整備や拡充を進めている。

年々増加傾向にある児童虐待の相談対応件数だが、「虐待に該当するか否か」の判断を下しているのが児童相談所だ。東京都児童相談センターの担当者に話を聞いた。

「児童相談所に寄せられた通告・相談のうち、調査の結果、児童虐待防止法上の『児童虐待』には該当しないと判断されるものは、『虐待非該当』と整理しています。

具体的な件数や割合は年度によって異なりますが、東京都では、令和6年度であれば、被虐待相談の総数27865件のうち、非該当は1405件となります」

具体的にはどのようなケースが「非該当」とされるのか。担当者は続ける。

写真はイメージです(PhotoAC)
写真はイメージです(PhotoAC)

「児童相談所に寄せられる通告・相談の内容や、子ども・家庭を取り巻く状況は非常に多様であり、一件ごとに事情も異なります。

そのため例を挙げるのは難しいですが、例えば『夜中にずっと泣いている』といった通告から虐待が疑われたが、調査の結果、保護者の養育には問題がなく、その子の特徴として夜泣きがひどいという事実が確認できた場合などがあります。

児童相談所では、通告・相談を受けた後、子ども本人からの聞き取り、保護者との面接、家庭訪問による生活状況の確認、学校・保育所・医療機関など関係機関からの情報収集といった状況の把握とアセスメントを行い、児童虐待防止法第2条で定義される身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待に該当するか否かを総合的に判断しています。

『一度叱っただけで子どもが泣いた』という事実だけで虐待と決めつけることはありません」

写真はイメージです(PhotoAC)
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いっぽうで、保護者が「しつけのつもり」と考えていても、虐待と判断されることもあるという。たとえば次のような場合だ。

・繰り返し叩く、物を投げるなど、身体に危険を及ぼす行為を伴う叱責
・「ばか」「いなくなればいいのに」など、人格を傷つける言葉を日常的に浴びせる
・長時間にわたり正座させる、食事を抜くなど、懲罰的な行為で従わせようとする
・夫婦間の激しい暴力を子どもの目の前で繰り返す(心理的虐待の一例) など

「いずれのケースでも、丁寧に調査・アセスメントを行なったうえで判断しています」と担当者は話した。