「児童相談所が家に来てもそんなに心配しなくていいです」

児童虐待の相談対応件数が増えている背景について、元東京都児童相談所児童心理司で家族問題・心理カウンセラーの山脇由貴子氏は次のように説明する。

写真はイメージです(PhotoAC)
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「相談対応件数の増加が顕著な都市部は、マンションのような近隣住民に声が届きやすい生活環境です。また、世間の虐待に対する意識の高まりや、虐待とされる行為の幅が広がったことも背景にあるのではないでしょうか。今は夫婦喧嘩も『心理的虐待』に該当します。

児童相談所は通告から48時間以内の安全確認が義務づけられています。中には近隣トラブルや虐待に該当しないと判断されるケースもありますが、その中に子どもが命を落としかねないような虐待があることも児童相談所は経験しています。

数年前に千葉県で起きた虐待死事件以降、厚生労働省や自治体は子どもの安全確認を強化するという対策をとりました。

ですから児童相談所として(通報を受けたら)『行かない』という選択肢はなく、行った上で虐待ではなかったら『それは良かった』ということです。ただ、来られたほうがノイローゼになったり、うつ病になったりという話は私もたくさん聞きます」

写真はイメージです(PhotoAC)
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では、保護者は子どものしつけにあたって何に気を付ければいいのか。山脇氏は次のようにアドバイスする。

「子どもに必要なことを教えなければいけないし、ダメなものはダメだと言う必要もあります。たしかに怒鳴ったり、子どもが怖がってしまうのは良くありません。重要なのは、『なぜ怒られているのか』を子どもが理解することです。

感情的になって大声で罵倒したり、人格を否定するような叱り方ではなく、子どもが自己否定感を抱かないような言葉を選んで、『あなたが悪いのではなくて、やったことが悪い』と伝え、次からどうすればいいかもちゃんと教えるということを意識してほしいです。

それに児童相談所が家に来てもそんなに心配しなくていいです。もし児童相談所から訪問されたら、『うちですよね』と認めてしまっても、怒鳴ったくらいで保護にはならないですから。さらっと対応するのがいいのではないでしょうか」

子どもが被害を受けている可能性を考えると、「虐待では?」と思った時には通報をためらってはいけない。だから、時には親が冤罪をかけられてしまうことは許容しなければならないのだろう。その際に、親は過度に気に病む必要はないということだ。 

最後に、児童相談所が抱える課題について山脇氏は次のように指摘する。

「現状では児童相談所で働くことを希望しない職員や、虐待に関する知識のない職員も配属されていますし、離職率も高い状況です。

こども家庭庁も言っているように、いま児童相談所は職員の専門性を上げることが求められています。ただ現状を見る限り、根本的には、国としてもそこにお金をかける気がないように感じられます」

子育てに悩みは尽きない。だからこそ、子どもも大人もSOSを出しやすく、それを社会全体で受け止められる体制づくりが求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班