拓也さんが残したメッセージ
8月31日、拓也さんは深い眠りについた。
「拓也が病気になって、神様なんていないと思いました。けれども、拓也が絶望的な気持ちですごす時間が短かったこと、そして最期に親族や友人に会えたことは、神様がくれたご褒美だったのかもしれません。それでも、悲しいです」
拓也さんの死後、仲のいい友人や先輩たちが彼を偲んで自宅にやってきた。母親が記した闘病記を読み、「こんなに苦しいときに、何でもないように『お誕生日おめでとう』ってLINEをくれていたんだ」と驚く友人もいた。
何人もの看護師から「これほど『ありがとう』を言ってくれる患者さんも珍しいです。ご自身がつらいのに、いらだつ気配もなく、いつも穏やかでした」と聞いた。異口同音に発せられる、拓也さんの根っこの優しさ。母親にも、思い当たる節がある。
「亡くなったあとに拓也からのメッセージが見つかりました。私、主人、次男のそれぞれに宛てたものです。主人と次男の両方に、『お母さんをよろしく』とありました。死と隣り合わせの状況で、私を心配してくれていたんですね」
拓也さんの生き様を通して、母親として伝えたいことがある。
「慢性活動性EBウイルス感染症という病気がどのようなものか、知る人が増えてほしいんです。そして、ひとりでも多くの患者さんが適切な医療につながることができ、治療法について研究する人が増えてほしいと考えています」
闘病中、拓也さんは言った。「病気が治ったら、結婚式でお母さんにサプライズをするからね」。そのうれしい企みが何か、母親はついぞ知ることはできなかった。
希少疾患に苦しむ人が少なくなりますように――拓也さんも願ったであろうその思いを、今度は母親が引き継ぐ。待ち望んだ社会を少しでも早く引き寄せて、拓也さんへの逆サプライズになる日を目指して。
取材・文/黒島暁生 写真/拓也さんの母提供












