「“市民葬儀”といいながら100万円を請求された」ボッタクリ事例も 

家族を亡くしたAさんは最低価格40万円からプランがあるとうたう葬儀業者のホームページを見て、「最低限のものでいい」とその額のプランを選んだ。

ところが、説明を聞くとプランには飾りの花もなく、故人の着物は浴衣みたいな簡素なもの。「これはあまりにも…」とオプションを追加していくと費用は全部で約170万円に跳ね上がり、仕方なく分割で支払った――。

写真はイメージです(PhotoAC)
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消費生活に関するさまざまな相談を受け付ける「国民生活センター」には、葬儀に絡む苦情や相談が相次いでいる。

同センターの資料には「見積もりも出さない葬儀社でほこりまみれの倉庫のような斎場をあてがわれ、“市民葬儀”といいながら100万円を請求された」とのボッタクリ事例も載っている。

同センターの葬儀分野担当者は「葬儀の準備はどうしても時間に追われてしまうところがあるので、一番大事なことはもしもの時に備え、葬儀の希望やイメージを考え、事前に業者について情報収集しておくことです」と準備の大切さを語る。

葬儀絡みで寄せられた相談は2024年度には978件と統計を取り始めてから最多件数を記録した。コロナ禍が始まった19年度は632件だったのが22年度には951件にまで増え、以降高止まりしている。同センター担当者も「コロナ禍を挟んで相談は増えました」と話す。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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なぜトラブルは増えているのか。消費者はどう対処すればいいのか。葬儀業の経験を基に「愛が伝わる葬儀」の普及を目指し、助言をする葬儀相談員・松瀬教一氏に聞いてみた。

「コロナ禍で人を集めたお葬式ができず、家族葬など小さな葬儀が増えたんです。その経験から、コロナ禍後も『(故人の知人を)呼ばなくていいじゃん』という考えが強まり、式の規模は小さくなっています。

この影響で売り上げは減り、いっぽうで人件費は高騰しています。それで葬儀の“押し売り”が増えているんです」(松瀬氏、以下同)

最近目立つ強引な手法の例としては、事前に聞いていた葬儀内容や額が違うため遺族が業者を代えようとすると50万円のキャンセル料を請求されたケースがあるという。

その他にも、本来は長期間安置しない限り不必要なご遺体の消毒、防腐処理、修復、死化粧など、衛生的に保全する「エンバーミング」などを基本料金に入れたりすることがあったという。

「遺族の心理として『遺体が傷むのも心配なんでエンバーミングやります』と言われると断りづらいですよね」

写真はイメージです(PhotoAC)
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ただ、苦情が増えているのは新しい手口の登場以上に「昔ながらのやり方がよりえげつなくなっている」ためだという。

「悪質な例では、約束したサービスをやらないことがあります。例えば、式での対面は一瞬だからとご遺体のメイクをせず、遺族が不審がると『死化粧なんで薄化粧です』『火葬の時間です』と言って、すぐ火葬しようとする業者もいます。

さらに祭壇の供え物の果物を見切り品でそろえたり、『お線香の香りがついて食べられませんから処分しときます』と言って家族に渡さず使い回したり、ということもあります」

そして葬儀費用に絡んでは、依頼者が払う額が最終的にいくらになるのかを事前にきちんと伝える業者は「1割」ほどしかないと松瀬氏は言う。