「僕は悪くない」「なんで謝らなければいけないの?」
ハンター側の証言によれば、この副議長は以前から狩りの現場に現れては「お前らは下手くそだ」などと誹謗中傷を繰り返していたという。積年の鬱憤が、この暴言で爆発した形だ。
結果、猟友会は「安全確保ができない」として、積丹町からの出動要請を1か月半近く拒否する事態に発展した。猟友会は「怒りに任せて『出動拒否』しているわけではない」と明言している。
副議長のような人物が現場に無秩序に介入する限り、安全な駆除活動は不可能であるという、論理的かつ当然の帰結である。
この間、クマは小学校のすぐ目の前に出没した。だが、ハンターは出動しない。いや、出動「できない」のである。役場職員と警察官が見回りをするしかないという、異常事態が続いた。
「お前、俺のこと知らねえのか?」という問いは、皮肉にも、副議長自身が「目の前のヒグマが何であるか」「猟友会が何であるか」を全く理解していないことを露呈した。
後に副議長は議会で謝罪に追い込まれたが、地元テレビの取材には「僕は悪くない」「なんで謝らなければいけないの?」と反論していた。この自己中心的な態度が、共同体全体の安全を危険にさらしているという自覚は、そこにはない。
82歳の老婆の冷静な対応
迫りくる獣の脅威を前に、人間同士が「誰が偉いか」という、最も原始的で不毛な序列争いを演じる。ヒグマはこの滑稽な茶番劇を、静かに待ってはくれない。
日本が、このような無益な対立と形式的な「マニュアル作り」に時間を浪費している間、我々が直視すべき「戦い」の記録が、アメリカ・コロラド州にある。この模様は、イギリス・ミラー紙に詳しい。(https://www.mirror.co.uk/news/us-news/woman-82-fights-100lb-bear-30701883)
2023年8月、82歳の老婆が、自宅に侵入したクマを素手で撃退した。
事件は未明に起きた。老婆はベッドで就寝中、大きな物音と愛犬の唸り声で目を覚ました。彼女が玄関ホールのような「泥室」の二重ドアを開けると、そこにクマがいた。
体重約45キロの小型の黒クマ。日本のヒグマよりはるかに小さいとはいえ、相手は82歳の高齢者であり、場所は逃げ場のない「自宅内」である。
クマは老婆に気づくと、即座に飛びかかってきた。
この瞬間、82歳の老婆が取った行動は、積丹町の副議長とは対極にある。彼女は「私を誰だと思っている」などとクマに問いたださなかった。彼女は悲鳴を上げて凍りつくことも、パニックで背中を見せることもしなかった。













