日本人が学ぶべき「82歳の体当たり」 

老婆は、両手でクマを押し返し、決死の「体当たり」でクマを突き飛ばしたのである。

彼女の行動は、純粋な「生存」への意志に貫かれている。権威も、面子も、予算も、そこには一切存在しない。目の前の脅威を「排除」するという、生物として根源的な一点に集中している。

老婆はクマを押し返すと、即座に二重ドアを閉め、クマを泥室内に閉じ込めることに成功した。閉じ込められたクマはパニックを起こし、部屋の棚によじ登り、窓の網戸を自ら破って屋外へと逃走していった。

老婆が負った傷は、足の軽い引っかき傷のみ。彼女はその軽傷を理由に、医療処置すら拒否したという。

我々はこの老婆の行動を、単なる「海外の武勇伝」として消費してはならない。これは、積丹町で起きた騒動の愚かさを、痛烈に叱責する「教訓」である。

この老婆の「個の力」は、特殊な例ではない。同じくロシアでは、80歳の羊飼いユスフ・アルチャギロフ氏が、ラズベリー畑でヒグマに遭遇した。彼もまた、年齢をものともせず、クマに対してキックと「頭突き」を浴びせた。

クマは予期せぬ抵抗に体勢を崩し、老人を崖から突き落として去っていった。彼は重傷を負ったが、生還した。彼の言葉が本質を突いている。

「もし怖気づいていたら、私は殺されていただろう」

写真はイメージです
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「権威」とは無縁の、剥き出しの生存本能が高齢者を生かした 

積丹町の副議長がこだわった「権威」とは無縁の、剥き出しの生存本能が、彼ら高齢者を生かしたのである。

この「戦う意志」は、日本国内にも存在する。青森県三戸町では、ラーメン店の57歳男性が、早朝の仕込み作業中にクマに襲われた。

彼は眉間を引っかかれたが、ひるまなかった。「やられて、投げ返した」と淡々と語るように、彼は反撃し、クマを撃退した。驚くべきことに、彼は負傷したまま作業を続けたという。

北海道名寄市では、観光中の50歳男性が2頭のクマに遭遇。彼は空手の経験者だった。向かってくるクマに対し、「やられる前に蹴りを一発入れた」。クマの顔面を蹴り上げ、2頭とも撃退した。

ラーメン店の男性は「投げ返し」、空手家は「顔面を蹴り」、ロシアの老人は「頭突き」を浴びせ、コロラドの老婆は「体当たり」で押し返した。彼らは全員、「自分から攻撃した」。

積丹町で欠けていたのは、まさにこの「戦う」という覚悟そのものである。副議長は専門家(ハンター)と戦い、ハンターは副議長(権威)と戦った。誰も「ヒグマ」と戦う体制を維持できなかった。