税負担の公平性の観点からも異質な「1億円の壁」

富裕層に的を絞った金融所得課税の強化は合理的であるように見える。

まず、この問題は税負担の公平性の基準を逸脱している。税負担には垂直的公平という考え方があり、これは税負担能力が高い富裕層ほど納税額を大きくして公平にしようというものだ。「1億円の壁」は、この基準から外れている。また、同じ富裕層であっても所得の種類で税負担率が異なるというのは、水平的公平の観点からもおかしい。

インフレで不動産価格の高騰と株高が続いており、資産価値が上がっていることも見逃せない。千代田区、中央区、港区の都心3区のマンション価格は、リーマンショック時の2008年と比較して2.5倍を超える水準まで上がっている。

11月10日、東京・新宿区のガソリンスタンドのレギュラー1ℓあたりの価格(撮影/集英社オンライン編集部)
11月10日、東京・新宿区のガソリンスタンドのレギュラー1ℓあたりの価格(撮影/集英社オンライン編集部)

実質賃金が上がらない日本には、強気な利上げを行なえるだけの体力に欠けている。円安基調が続き、株高を呼び込みやすい。富裕層が持つ資産価値が上がりやすい状況にあるのだ。

そして、一般庶民はNISAによる税制優遇策で守られている。日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査」によると、年収300万円未満の52.6%、500万円未満の62.4%が新NISAの口座を開設しているという。

NISAの普及は相場を下支えしていると見ることもできる。富裕層の資産は政府が掲げる「貯蓄から投資へ」という流れの中で、価値が守られてきたわけだ。

「1億円の壁」の是正は税負担の公平性を担保し、一般大衆への影響も少ないものなのだ。