閉ざされた「家族」内で何が起きているか
近年、児童虐待に関する痛ましい報道を目にする機会が増えている。1990年に統計が公表されて以降、児童虐待の相談件数は増加の一途をたどり、2023年度には22万5509件と過去最多を更新した。だがそれは膨大な虐待事例のほんの一部、氷山の一角にすぎない。
注目すべきは、虐待が起きた家庭の多くが、経済的貧困家庭であるという点だ。近年では都市部を中心に、教育虐待と呼ばれる新たな形態も増加している。勉強に向かわせようという熱意がエスカレートし、子どもに過度のストレスを与えてしまう。
時にそれは身体的・心理的虐待を伴うケースもある。そうした教育虐待は主に高学歴・高収入家庭で発生しがちだが、いわゆる従来型の虐待(心理的・身体的・性的虐待及びネグレクト)は、貧困家庭の状況と強く結びついていることが多い。
2006年の社会保障審議会児童部会の報告によれば、児童虐待が発生した家庭の84.2%が、「生活保護世帯」や「市町村民税非課税世帯」だった。では、子どもたちを虐待しているのは誰か。実に9割以上が実の両親なのである(実母48.7%、実父42.3%。2023年度、国の資料から)。
児童虐待はまさに「家族のリスク」の最たるものである。家庭内で虐待を受ける子どもたちには逃げ場がないし、逃げる手段もない。たまたま祖父母や近所の住民、幼稚園や学校が虐待の事実に気づき、救いの手が伸びればいいが、そうした外部からの手助けがなければ、幼い子どもたちが自身の力でその状況から脱することは極めて難しい。
また、虐待を行ってしまう親を、単に「ひどい親だ」と断じるのは簡単だが、その背景や個別事情を顧みる必要もあるだろう。虐待を行ってしまった親も、子が生まれた直後は我が子を慈しみ、大切に育てようと決心したのではないか。それでも慣れない子育てに睡眠時間を削られ、相談したり日常的に手伝ってくれたりする家族もいなかったらどうなるか。
経済力があれば家事手伝いやベビーシッターも雇えるだろうが、経済的に苦しければ現在はもとより将来への不安も大きくなるだろう。就労と育児の疲弊が溜まれば感情のコントロールも難しくなるし、この子がいなければもっと人生の選択肢は広がるのに……と瞬時に思ってしまうことも増えるのかもしれない。
その状況にない人には想像が難しい。でもだからこそ、「ひどい親」で済ませてしまってはいけないのではないか。













