立憲民主党幹事長が「言葉遊び」と揶揄した「責任ある積極財政」とは?
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げている。これについては、まだ具体的な方向性が示されていないこともあって、不安視する声も多い。
立憲民主党幹事長の安住淳氏は、10月29日に放送されたラジオ番組「岩瀬惠子のスマートNEWS」の中で、「責任ある積極財政というのは、コントロールしながら国債を発行するということだけれども、コントロールしながらやっていくということは積極財政とは言わない。言葉遊びだ」と批判した。
これは実務を見たところ「緊縮財政」なのか「積極財政」なのかよくわからないという主旨の発言だろう。高市政権に批判的な立場を置く人のモヤモヤを見事に言語化している。
しかし、これについては片山大臣の記者会見の中にヒントがある。「ドーマーの定理」(政府債務の持続可能性を判断する経済学上の理論)だ。片山氏は、今はプライマリーバランス論よりも「ドーマーの定理じゃないですけれども、純債務の対GDP比がどのぐらいで推移するかというところを見て」と発言した。
これは注目に値する。いかに注目される発言かをわかりやすく解説したい。
「プライマリーバランス」とは、社会保障や公共事業などの政策的経費を税収等で賄えているかどうかを示すもので、企業のキャッシュフローに近い考え方だ。プライマリーバランスが黒字であれば、財政の健全化が進んでいると見ることができる。
日本は恒常的な赤字が続いており、2025年度も赤字が見込まれている。長年、借金に頼っているというわけだ。これが「未来にツケを回す」という議論の根底にあり、財務官僚をはじめ多くの政治家が黒字化を目指している。
しかし、片山大臣は「今やそこというよりは、ドーマーの定理」と述べた。ドーマーの定理は、一般的に「ドーマー条件」と呼ばれるもので、利子率と経済成長率を比較し、利子率が経済成長率よりも低ければ、財政破綻は起こらないという考え方だ。
つまり、ドーマー条件が成立するということは、経済成長が金利負担を上回る状態であるため、新たな国債の発行(借金)をしてもその負担がカバーできることを示している。
2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は自身の論文の中で、日本経済について言及している。日本銀行の金融政策によって、利子率を経済成長率よりも低く保つことができているため、財政破綻には陥らないと主張した。
片山大臣は、足元の名目GDPが4%程度であり、国債金利が1.65%であると語っている。
結局のところ、高市政権の「責任ある積極財政」とは経済学の立場で投資と回収のバランスを見極めるということではないのか。安住氏は「言葉遊び」と指摘したが、従来の帳尻合わせの国債発行ではなく、経済成長に向けた投資であるとすれば、その意味合いは変わってくる。
ドーマー条件は、インフレ局面においては成立する可能性が高い。インフレは基本的に名目GDPを拡大させるからだ。そして、日銀は10月の金融政策決定会合で政策金利を据え置いたが、利上げにはまだ慎重姿勢を残してもいる。
ただし、2009年に財政危機に陥ったギリシャのように債務残高が高くなりすぎると金利が上昇しやすくなるため、どこかの段階でプライマリーバランスの黒字化が必要になる。片山大臣はこのかじ取りを任されているわけだ。
そして、この考え方を財務省に根づかせるためには、財務官僚の「マインドセットを変えて」取り組む必要があるわけだ。












