闘う相手は『世間の常識に流されそうになる自分自身』

「元祖崖っぷちアイドル」

熊切あさ美の代名詞であるこのフレーズは、彼女の芸能界での立ち位置を象徴していた。一時期仕事が激減し、芸能界引退を見据え、アルバイトをしていたこともあるという。

アイドルグループ「チェキッ娘」時代を経て、一人のタレントとして歩み始めたころのバラエティ番組での苦悩を振り返る。

「若いときは、とにかくすごく比べられるんですよ。なんであの子はこれができるのに、君はどうしてできないんだよって、当時のマネージャーさんにしょっちゅう言われていましたね。

だからしばらくは女の子の芸能人の友達が作れなかったんですね。みんながライバルに思えて、仲良くしてはいけないものだと思い込んでいました」

もともと、「なにがなんでも一番でいたい」と考える性質ではなく、芸能界に入ってから「人と比べられる」ということに悩まされたという。

比較され続けたトラウマは、今も彼女の心に影を落とす。

「未だにその当時のトラウマで、ふとしたときに20歳ぐらい下の子にジェラシーを感じたりするときがあって。『ああ、いけないいけない』って(笑)。ある程度年齢を重ねたら、闘う相手は他人ではなくて『世間の常識に流されそうになる自分自身』だって気づくんですけどね」

自分のマインドについて赤裸々に語った熊切あさ美 撮影/山田智絵
自分のマインドについて赤裸々に語った熊切あさ美 撮影/山田智絵
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芸能界と華やかな世界は地続きだ。クラブ、パーティー、さまざまな人との出会い。しかし熊切は、意識的にそこから距離を置いていた。

「『呼ばれても本当に行かないよね』って言われていました。やはり、周りの子といろいろ比べられたりするので、これ以上傷つきたくなかったんだと思います」

恩人であるカメラマンのひと言もあるという。

「『あさ美ちゃんは、あんまりああいう所へ行かないほうがいいかもね』って言葉がなぜか心の中にあって、本当に響いたんです。メンタルが落ち込んでいるときにそういうところへ行っていたら、現状から逃げたくて余計にハマっていたかもしれない。すごい人と知り合えたりとか、お金持ちとお付き合いもできたかもしれないですね(笑)」

友人がクラブで知り合ったという有名人の名前を聞いて、「行っとけばもうちょっと人生違ったのかな」と思ったこともある。しかし、彼女は続ける。

「でも他の人の力で持ち上げてもらったりした後、実際の自分を見つめ直したときに、寂しくなると思うんですよね。その華やかな世界になんとかして居続けたくて、自分を大きく見せがちになるような気がして。

元々、人に頼るのが苦手なんですよ。マイペースで、自分で考えて行動するほうが好きなんだって気づいてから、かなり楽になりましたね。そのおかげで、仕事に波があっても、なんとか乗り切れたと思います」