「自分と同じ意見の人がたくさんいる」

たとえば、あるユーザーが政治的な話題に関心をもち、特定の政党や主義主張を支持する投稿に「いいね」やシェアを繰り返しているとする。

このユーザーのタイムラインには、同様の政治的見解をもつアカウントからの投稿が優先的に表示されるようになる。その結果、ユーザーは同じ意見をもつ人々の投稿ばかりをみるようになり、異なる視点や反対意見に触れる機会が減少する。

これがエコーチェンバーの一例である。エコーチェンバーは、アルゴリズムによるアテンションへの最適化が再帰的に適用されることで、情報の偏りを助長し、ユーザーの確証バイアスを強化してしまう。

自分の意見に近い情報ばかりに囲まれた状態は、とても居心地がよいともいえ、情報の正確な分布を知ろうとする意欲を失わせることにもつながる。そこに入ってきた真偽不明の情報に対し、エコーチェンバーの内部で都合のいい偏った解釈が信じられたり、外部と情報が「分断」されて異なる意見に不寛容になったりする弊害が起こりうる。

出典:鳥海不二夫(2021)「ツイッター上のオリンピック反対派はどのような人たちか」ヤフー! ニュース、2021年7月5日(2025年2月10日取得 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f0cadc7d6e28878f772c3cced701b1dd7b3dcb96)
出典:鳥海不二夫(2021)「ツイッター上のオリンピック反対派はどのような人たちか」ヤフー! ニュース、2021年7月5日(2025年2月10日取得 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f0cadc7d6e28878f772c3cced701b1dd7b3dcb96

図は、計算社会科学者の鳥海不二夫が2021年に日本のツイッター(当時)におけるエコーチェンバー現象を可視化したものだ*3。

2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には、コロナ禍ということもありSNS上でもその賛否が議論された。図の上部の小さなかたまりがオリンピック・パラリンピックの開催賛成のツイート群、下部の大きなかたまりが開催反対のツイート群である。このように、2つのツイート群は相互に交流がほとんどなく、意見が「分断」していることが可視化されている。

それぞれの群に属しているユーザーは、エコーチェンバー状態になり、全体の意見の実際の分布とは無関係に、「自分と同じ意見の人が周りにたくさんいる」ようにみえていたことが推測できるのだ。

これは、アテンションに最適化されたSNSのアルゴリズムが、そのアカウントが賛成した意見を優先表示すると同時に、無視した意見への接触機会を減らすようにフィルタリングすることによって生じてしまう現象だ。