「予測できないことが起こりミスもある。だからこそサッカーは面白い」と中村さん。
「予測できないことが起こりミスもある。だからこそサッカーは面白い」と中村さん。

仕事に主体的に関わっていく“オーナーシップ”がまだ足りない

村井 そう言ってもらえるとありがたい。憲剛とは定期的にいろいろと話をさせてもらっているよね。今、サッカーから距離を置いてもっと客観的に見ることができるようになって、あらためてサッカーというものを自分のなかで再定義したんですよ。

中村 再定義、伺いたいです。

村井 まず前提として、サッカーは人間が手を使わずに足を使うからミスをするスポーツ。だから我々が仕事をしていくうえでもPDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)に加えてミスのMを入れてPDMCAと私は言ってきました。人間が足を使うがゆえに、ミスはつきものです。つまり上司の指示がどうこうではなく、自分で考えて判断して軌道修正していかなきゃいけない。仲間たちと協力しながらミスを乗り越えてチャレンジしていくっていうことを(任期の)後半はそう思っていた。よりそれが確信に変わってきているのが今。振り返ってみるとDAZNと10年間に及ぶ契約を結んだときも、職員からの指摘がきっかけだったわけです。

中村 と言いますと?

村井 試合ですごいシュートがあって「これ、すぐにインターネットで出そうよ」と言うと、当時は(中継契約を締結していた)スカパー!に制作著作権があるため、許諾をとって、費用を払わなければいけなかった。「そんなに(映像をすぐに)出したいなら、自分でやるしかないですよ」との指摘を受けたのです。考えてみればそうだよなって。だから今のように、Jリーグで全試合、制作著作権を持つというところに舵を切った。貴重な情報を持っているのは職員のみなさんであり、そのアイデアからいろんなことを動かしていく。ピッチ上も同じじゃないですか。起こっている事象を観察して、打つ手を考えて、仲間に伝えながらやっていく、その繰り返しだと思うから。

中村 広いピッチの上では予測できないことが多々起こりますし、当然ミスもある。想定外のことが起こった時に瞬時に対策を練って仲間とつながって良い方向に持っていく難しさはありますけど、だからこそ面白い。同じことが起こらないことがサッカーの魅力のひとつだと思います。

村井 本当にそうだね。

中村 ちょっと語弊のある言い方になってしまいますけど、現役のときの試合中は当然プレーしているので監督の話は半分くらいしか聞けていなかったと思います。なので、試合が止まってピッチサイドで水を飲んでいるときに、(選手の自分が)内側から見ているものと(監督が)外側から見えているものをすり合わせる時間がとても重要で、その時間は全集中していました。互いに出した方向性をベースに、村井さんが仰るように、自分がピッチ上で判断していくところを大事にしていましたね。

村井 言葉にするなら“オーナーシップ”ですね。自分の仕事というものに主体的に関わっていくということ。特にサッカーではここが求められるし、非常に大切になってくる。ここを再認識したんですね。そして実は(日本の)足りないところだと言えるかもしれない。

中村 非常に興味のある話です。なぜそのように言えるのか。指導者の役割も大事になってくるような気がします。

対談はバドミントン協会が入っているオリンピック・スクエアで。後ろは、もちろん国立競技場。
対談はバドミントン協会が入っているオリンピック・スクエアで。後ろは、もちろん国立競技場。
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後編に続く

取材・構成/二宮二朗 撮影/熊谷貫
※「よみタイ」2025年10月4日配信記事

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