スピードガンのせいで肩肘を壊す
TJ手術につながるようなケガが増えている背景には、「スピードを測る」というこれまた誤った考え方がある。
1970年代半ばからMLB中継で、遅れること数年、日本のプロ野球中継でもスピードガンによる球速表示が使われるようになった。現在では測定器が普及し、それが「肩肘は消耗品」という誤解以上に、肩肘を壊す背景になっている。
本来、野球という競技は、勘違いや錯覚を利用する心理ゲームだ。
特にピッチングは、どのカウントで、どの球種を、どこに投げるかによって、打者は狙いやタイミングを外され、打ちづらくなる。だから、速い・遅いといった「感覚」が重要なのであり、時速○キロといった「数値」にはさほどの意味はない。
にもかかわらず、野球界には、その数値を絶対的に信用して重要視する「スピードガン原理主義」がまかり通っている。
かつて阪急、オリックスで活躍した星野伸之は、スローカーブとのコンビネーションと球種がわかりにくい独特のフォームで、120キロ台の直球で振り遅れさせ、普通に空振りさせていた。
速球全盛の現在でも、スピードガン表示は140キロそこそこでも、直球で勝負できる投手はいる。逆に150キロ超の速球を投げても、あっさり打たれてしまう投手もいる。ピッチングの本質を示すいい例だ。
しかし、日本でもアメリカでも、プロ野球を目指している若い投手たち、それを育てる指導者たち、才能を発掘しようとするスカウトたちにとって、スピードガンの数字は手っ取り早く資質を示す指標だ。まあ、大相撲の新弟子検査で身長と体重を測定するようなものだ。
本当は、その1キロ、2キロにこだわる必要などまったくない。それはそうだろう。10球も投げればへたってしまう「MAX150キロ」になんの意味があろうか。
しかし、現実には下半身も、体幹も、投げるスタミナも未熟なのに、瞬発力だけでスピードを記録して、ケガをしてしまう若い才能が多いのだ。