「虚実皮膜」という芸能界でトップになった人たちの魅力
首領たちは自ら組織を作ってビジネスを作ったメソッドがあり、哲学を持っていた。また、「虚実皮膜」という特異な世界に生きてきた彼らだからこその美学や個性的な人間性も垣間見ることができる。
「マキノ正幸さんはもう昭和のプロレスラー。僕の大好物ですよ、確実に嘘つくんだから(笑)。何を見せるかみたいなことを常に考え、自分にどう興味を向かせるかに全力なところがまさにプロレスラーでした。
安室奈美恵を見つけたときの話もやっぱり物語を作らないといけないという意識があったんだと思います。そういうところも人間らしくてかわいいというか、魅力的な人だし話を聞きたいと思う人です。家族にいたらすごく困る人でもあるんですが……」
マキノをはじめとして本書に登場する首領たちは創業者社長であるが、その中で唯一例外なのが吉本興業に入社して社長になった大﨑洋だ。田崎氏は漫才師の中田カウスを通じて大﨑と食事をするような関係性になった。
「やはり今の芸能界を書く際に吉本興業のことは書かないわけにはいかなかった。サラリーマン社長には興味はないけど、大﨑さんは吉本のビジネスモデルを変えた存在です。
ダウンタウン松本さんの書籍『遺書』の印税率を売り上げに応じて変えていく、浜田さんと小室さんが組んだ『H Jungle with t』が売れたことで音楽ビジネスも進めていくなど権利ビジネスを吉本に確立させたことが大きかった。
ただ、大﨑さんに関しては、カウス師匠と僕の関係性もあるので、この章だけは僕が京都で生まれ育って、そこで見てきたものを強調しています。
かつての関西お笑いと東京お笑いというのはまったく違うカルチャーだったんです。それが漫才ブームを経て、ダウンタウン以後に完全に磁場が変わった。だけど、以後しか知らない人に以前は違うカルチャーだったという文脈をわかってもらわないと吉本興業について書けないんです。
あと吉本は創業者一族との関係性など組織として複雑すぎるので、大﨑さんが吉本を変えた『中興の祖』として中心に描くという方法しかなかったです」
田崎氏は、今後ほかの芸能界の首領たちに話を聞けるとしたら、どんな人物に興味があるのだろうか。
「芸能界についてはやりたいという気持ちもなきにしもあらずですが、まだはっきりした構想はありません。
IT系の人は人間的に魅力がないんですが、イーロン・マスクは好きですね。自伝を読んでいるとマキノ正幸さんを彷彿させるプロレスラーのようなところがあります。ハッタリをかまして注目を集めて、後でそれを実現して本当にしようとする。あとは圧倒的なエンジニアなんですよ、だから車も好きなんでしょう。
本田宗一郎みたいなところもあって、「狂ったホンダ・ソーイチロー」だから、ロケットも作るし、システムを構築して何かをやろうとする。あの人は絶対におもしろいですね」
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SNSをはじめとし個人で様々なことが発信できる時代になったが、YouTuberなど多くは次から次へと現れる優れた才能に後から追いかけられて、ほとんどは消えていくことになるだろう。
古い体質と呼ばれる「芸能界」だが、タレントと並走する、寄り添うプロダクションの人たちがいたから、本人すら気づかなかった才能を開花した者もいる。
新時代の異能の人たちは「芸能界」でない場所から現れるかもしれないが、芸能プロダクションが作り上げてきたものを参考にする可能性も高いのではないか。
取材・文/碇本学 写真/Shutterstock