才能とは「運と縁という数値化できないものを持っていること」

田崎氏はかつて在籍した「週刊ポスト」で勝新太郎の人生相談コーナーの編集を担当しており、生前の勝と親交が深かった。

その後『偶然完全 勝新太郎伝』を執筆するなど縁は続き、「勝さんに可愛がってもらったことが僕の背中をずっと押している」と感じていたという。

「勝さんだけでなく、長良じゅんさんと一緒に飲みに行っていたとかそういう人はあまりいない。それが功を奏してか、ある程度「芸能界」の裏側をわかっているんだなと取材対象者たちもわかって、依頼を無視できないということもあったと思います。

取材してちゃんと話してもらうには、信頼関係やバックグラウンドが必要です。年齢によって書くものは変わってくる。本作は自分が50代だからこそ書けました」

『偶然完全 勝新太郎伝』(2015年、講談社)
『偶然完全 勝新太郎伝』(2015年、講談社)

『ザ・芸能界』に登場する首領たちはタレントのマネジメントだけではなく、まだ見ぬ才能を長年にわたって見出し、育成してきた。

「ビーイングの大幸さんやアクターズスクールのマキノさんもそうですけど、ずっと連続してブレイクする人を世に出し続けてきた。それってラッキーじゃないんですよね。彼らは自分の中にある才能の定義があって、その数値化できないそのタレントだけが持っている何かを見つけられる人たちだった」

様々なジャンルの異能の人たちに話を聞いてきた田崎氏。才能と、その才能を見出す才能を持つ人たちを見てきて、他のジャンルとも共通点があることを感じたという。

「芸能だけでなく、サッカーや野球でも才能ってわからないところがあると思ってます。誰と出会うか、どこにライバルがいるとか。僕たちの業界もそうなんですが、簡単に文章がうまいとか言うけど、本当にわかっているのかなって。

物書きも誰に見つかるのか、どこの媒体に書くとかで評価は変わってくる。僕がいつも言っているのは、大事なのは取材対象に対して執念があるかないかだけなんじゃないかということです。

小学館の編集者時代に書き手を含めたノンフィクションの勉強会をしていたことがありました。僕よりも文章は上手い人はたくさんいたけど、残っている人はわずか。

勝さんとの出会いが顕著ですが、僕は運も良かったし縁があった。それが僕の才能の捉え方です。芸能の人たちもそういうことをすごく感じている。その人だけが持っている数値化できない何かを見つけることができる人たちがプロダクションを大きくして影響力をもっていった」