過疎地域は豊かか?

過疎地域にまつわる言説の中には「裕福」という論調も僅かながらある。その内容は「物価が安くなる」といった類のものだ。現実はその逆で、競争原理の働いていない過疎地域の商品価格は総じて高い。飲食店の回転率も低いので割高の料金設定になる。都市部のような安くて美味しい定食屋がない。

また、プロパンガスは都市ガスと比べて約1.8倍の価格だ。さらに、過疎地域は自家用車の所有が必須で、その購入費と維持費は生活を圧迫する。過疎地域で比較的裕福なのは、地方公務員等の税金で飯を食う住民に限られる。

国税庁の「民間給与実態統計調査〔2023〕」によると、日本人の平均年収は458万円だ。それに比べて、私の調査地域の平均年収は約225万円だった。年収において約2倍の地域格差がある。

ハローワークの職員は「年収300万円を超える求人はトラックの運転手くらいです」と言う。それでも住民は「現状で充分に豊か」と言う。

「過疎地域で年収300万円を超える求人はトラックの運転手だけ」でも幸福度は都市部より高い? 田舎をめぐるネガティブな言説のウソとホント_2

そこには昔ながらの安らぎがある。ゆるいスピードがある。のんびりとした気楽さがある。人間関係のわずらわしさを許容し、余分なモノを欲しがらず、身の程をわきまえてつつましく暮らしている。昔ながらの日常に従うことで、静かで落ち着いた平穏な生活が手に入る。

そのような日常を嫌う住民は過疎地域を去る。過疎地域で成長志向と発展思考を持つと暮らし向きが悪くなる。他者と違うモノが欲しいとか、新たな刺激が欲しいとか、切磋琢磨したいとか、そう考えると不自由さや窮屈さを感じる。

都市部にはアートやサイエンスと呼ばれる洗練された芸術性や科学的な趣向が幾つもある。魅力的な職場を自由に選択できる環境が整っている。それらは金銭的な交換価値が高く設定されている。それゆえ、都市部は多くの若者たちを惹きつける。

そこにあるのは住み分けの意識だ。成長志向と発展思考を持つ者は都市部で暮らし、保守性と閉鎖性を持つ者は過疎地域で暮らす。それは若者の背中を押して「やりたいことを精一杯頑張れ」と言って、都市部に送り出す寛容さにつながっていた。

この住み分けの意識を覆そうとしているのが政府の過疎地域対策だ。それは住民にとって余分なモノをつくり出そうとする動きとして捉えられる。しかも税金を使っているので誰一人として責任を負うことなく繰り返されている。