12文字の限界

しかしだからといって、今のまま、新聞的な見出しのままでデジタルに出すのをよいとは思わない。

新聞の見出しは5W1Hの中から「何がニュースか」という視点で付けられている。さらに難しいのは、12字以内という短さで表現しなくてはならないことだ。大きなニュースであれば、12字の見出しを3行〜4行付けることもある。

こう言うと、12×4=48字も見出しに使えると誤解されるかもしれないが、そういうことではない。12字以内で完結した見出しを4本付けるということであり、結局、窮屈この上ない見出しになる。

たとえば、共同通信が新聞用に配信した、ある記事の見出しを例に挙げてみる。

自民裏金39人処分 塩谷、世耕氏離党勧告 安倍派3人も党員資格停止 首相と二階氏は見送り(共同通信社、2024年4月4日配信)

4本の見出しすべてが12字以内になっている。助詞は一つか多くて二つ。ほかは句読点やカギカッコを使いがちになり、結果的に漢字が増える。

この見出しは、2024年4月5日の朝刊用に配信された記事のものだ。自民党の議員39人が裏金問題で処分されたことが最も大きなニュースだと判断され、1本目の見出しになっている。

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この見出しだけでニュースの要点が一目で分かる。朝刊の1面トップに並べることが想定された、簡潔で美しい、新聞らしい見出しだとも思う。

ただ、この見出しでデジタルプラットフォームのニュースサイトに載せたら、果たしてどうだろうか。各新聞社・テレビ局が同じニュースを報じる中で、共同通信のこの見出しは読者に選ばれるだろうか。

直感的に、このままでは選ばれないと想像できる。まず、この見出しだけでニュースの要旨が分かるため、スマホをタップする一手間をかけてまでわざわざ本文を見にいく必要がない。

さらに、客観的な事実が端的に羅列されただけの見出しでは、多くの人が見にこない=PVが増えないことが、経験的に分かってきた。

見出しについても、新聞的な考えから脱却しなければ、デジタル記事は読まれない。記事が読まれなければ時間と手間をかけて取材した記者たちのモチベーションに関わる。

悩んだ挙げ句、「やりすぎない」範囲内で、少しでも多くの読者に届ける方法を模索することになった。PV至上主義ではなく、読者が興味を持ってくれるように工夫する、そのために絶対に釣り見出しにはせず、何について書かれた記事かを明示する、というあいまいな道を探し求めた。

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新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
斉藤 友彦
新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
2025年2月17日発売
990円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721350-8

共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPVを数々叩き出してきた著者が、アナログの紙面とはまったく異なるデジタル時代の文章術を指南する。
これは報道記者だけではなく、オンラインで文章を発表するあらゆる書き手にとって有用なノウハウであり、記事事例をふんだんに使って解説する。
また、これまでの試行錯誤と結果を出していくプロセスを伝えながら、ネット時代における新聞をはじめとしたジャーナリズムの生き残り方までを考察していく一冊。

◆目次◆
第1章 新聞が「最も優れた書き方」と信じていた記者時代
第2章 新聞スタイルの限界
第3章 デジタル記事の書き方
第4章 説明文からストーリーへ――読者が変われば伝え方も変わる
第5章 メディア離れが進むと社会はどうなる?

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