芸能界に復帰した本当の理由
――その後の大ブレイクを経て、突然芸能界を引退されお店を経営されていましたね。
はい、週刊誌にはホストクラブと書かれていましたが、実際にはお酒が飲めるサパークラブでした。引退前から、自分は芸人として長くは続かないだろうと思っていたので、芸人の仕事をやりながら仲間と共同経営で始めました。
――芸能界を引退されていた2015年、『しくじり先生』に出演されました。どのような経緯で出演が決まったのでしょうか。
あれはSNSを通じて、番組の方から直接オファーをいただいたんです。最初は断ったんですよ。芸能界をやめてサラリーマンをしていたし、バラエティーで上手にしゃべれる自信もなかったので。
だけどスタッフさんが本当に熱心な方々で、『台本も作り込むし、誠意を持ってやりますから』と、何度もオファーしてくださって。打ち合わせも丁寧で、過去を振り返る時系列まで細かく確認してくれて、『いい番組だな』と心から思い、お受けしました。
かなり久しぶりのテレビでしたけど、教科書のように台本が用意されていて、それを読めばいいだけだったから助かりましたね。もちろんネガティブな内容を話すことにはなるんですが、不思議と気持ちよかった。
放送後の反響もすごくて、『面白かった』『感動した』といろんな声をいただきました。
――番組出演当時は、時計を扱うお店で会社員として働いていたそうですね。
そうなんです。海外から仕入れた時計を国内の小売店に卸す営業として、5年ほど働いていましたね。会社員をしていてよかったのは、本来ならば完全に門前払いの会社でも、僕が行けば『あれ?猿岩石の…!』と、ドアを開けてもらえたこと。顔が売れていて良かったのは、そのくらいですね。
実はちょうどその頃、離婚も経験した直後で、家庭のために選んだサラリーマン生活の意味を見失っていたんです。そんなときにしくじり先生のオファーが来たから、過去を振り返るいい機会になったと思います。
――そこからなぜ、芸能界復帰を決められたのでしょうか。
『しくじり先生』の現場でスタッフの方々がすごく一生懸命働いているのを見て、『俺はこのままでいいのか?』って考えたんです。あの番組に出る時点で、実はもう“サラリーマンを辞める”ことは決めていました。芸能界復帰にあたり、背中を押してくれた当時の会社には、今でも感謝しています。
――芸能界復帰にあたり、やはり芸人として大成功されている有吉さんの存在は大きかったのでしょうか。
いや、どうなんでしょう。全く意識しなかったわけではないですが、彼はもう2度目のブレイクを果たしていましたからね。アイツに頼ろうなんて一切思いませんでした。むしろ“過去の栄光にすがってる”と思われるのが嫌で。純粋に役者をやりたい、ただそれだけでした。
――お笑い芸人としての復帰ではなく、あえて役者の道を選んだ理由はおありでしたか。
芸人の先輩にお願いしてバラエティーに出させてもらうことはできたかもしれない。でもそれだと、役者としては意味がないんです。僕はアドリブでしゃべるのはあまり得意ではないし、面白いことも言えない。
復帰後、『踊る!さんま御殿』など、何本かバラエティーに出させてもらいましたが、爪痕は残せなかったですから。ああなることはわかっていましたが、番組を見た方からSNSにアンチコメントを書かれたり、芸人時代の先輩からは『芸能界なめんな!』と厳しく言われたりもしましたね。
当時は悔しかったですが、アンチの方には、もし評価をするなら舞台観てから言ってほしい、と思います。もしまたバラエティー番組からオファーをいただけたとしたら、芝居でちゃんと結果を出してから出たいですね。
文/佐藤ちひろ