措置入院ではじめてPTSDだと診断を受ける

渋井 つらかったのに、大人も助けてくれなかったわけじゃないですか。大人への信頼感とか男性に対していいイメージはないですか?

小林 まったくないですね。当時の私に信頼できる大人が一人でもいたらよかったんですが、本当にいませんでした。父は毎晩酒を飲んで帰ってきて、暴れて母親を殴るんです。とにかく私は父が暴れるのが嫌だったので、父の話を全部「お父さんすごいね」って聞いてました。

渋井 エリコさんが性虐待の話を初めて打ち明けたのはお医者さんに、でしたか?

『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』の著者の渋井哲也さん(右)と、自身も虐待被害と4度の自殺未遂を経験した作家・小林エリコさん(左)
『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』の著者の渋井哲也さん(右)と、自身も虐待被害と4度の自殺未遂を経験した作家・小林エリコさん(左)
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小林 たしか高校生のときは主治医には言えなかったんですよね。成人してから精神科で主治医に性虐待の話をしましたが、驚いたり悲しんだりする医者はいませんでした。いつも通りの薬が処方されただけです。でも今はカウンセリングのおかげで症状もすごくよくなっているので、カウンセリングが世の中にもっと広まればいいなと思います。

虐待とか家庭の中で起きている問題は、外部からの力が働かないと逃げられないと思うので、周りからしたら介入したくないと思うんですけど、こちら側からしたら積極的に介入してほしいです。家族がぶち壊れてもいいと思います。

渋井 カウンセラーはどうやって見つけたんですか?

小林 ちょっと話が長くなるのですが、私が措置入院をした時のことを話させてください。措置入院っていうのは、都道府県知事の命令と、精神保健指定医二人以上の診断が必要となる、精神科への強制的な入院手続きなんですね。

あの頃は本当に、貧困と孤独でおかしくなっていて……高齢者施設の事務所みたいなところに無断で入っちゃったり、いろんな妄想もあって……。恥ずかしい話なんですけど、自分のことを「天皇」だと思ってたんですよ。

渋井 よく聞く妄想ですよね。

小林 その後、身体拘束されて、措置入院しました。そのとき診てくれた先生が初めて自分の話をちゃんと聞いてくれたんです。今まで性虐待のことを主治医に言っても何の反応もなかったのに、その先生は「それは大変だったでしょう。つらかったでしょう」と、私の気持ちに共感してくれました。そして「あなたは何も悪くない。あなたはPTSD だ」と言ってくれました。「いじめもたくさん受けました」と伝えると「それなら複雑性PTSDだ」と、そこで初めてPTSDと言われたんです。

それならEMDRという眼球を動かすトラウマの心理療法をやった方がいいとすすめられて、EMDR学会のホームページを教えてもらって、そこで探しました。