兄からの性虐待によって、24時間死ぬことのみを考えた日々
渋井 子どもの場合、統計的には、虐待が原因の自殺ってそんなに多くないことになってるんですけど、実際に取材してみると、6〜7割くらいの人が家族のことで悩んでるんですよね。
小林 たしかに私は、虐待を受けてたってことを公にしてるんですけど、当時は児相(児童相談所)に通報とかもしてないし、警察の統計にも一切残っていない。
渋井 そういうケースがたくさんあるんですよね。
小林 そうだと思います。私は兄から小3からの1年間くらい、寝ている時に股間に顔をうずめられるなどの性的虐待を受けていました。私が子どもの頃は、そういうことが家庭内で起こるというのを知られにくかったんです。最近やっとメディアでも、家庭での性暴力について発信するようになっていますが、当時は兄からひどいことをされても、相談できるような窓口もありませんでした。
特にきつかったのが、お風呂に入るのをやめたことがあったんです。私が汚くなれば、兄に触られることもないんじゃないかと思って……。お風呂場でも触られたり、すごくイヤなことされてたので。
お風呂に入るのをやめたら、次は学校で「小林、臭い」といじめられました。家でもイヤな目に遭って、学校に行っても兄の虐待をきっかけにバイ菌扱いされて……。中学校でもそのままいじめが続いて、泣くまでクラスメイトに蹴られるとか、教科書を踏みつぶされるみたいなこともありましたね。
渋井 お兄さんとの関係が普通ではないということに、いつ頃気が付かれたのですか?
小林 私の様子がおかしいので、1年くらいして母が気付いたんです。夜、両親が子ども部屋に入ったら、兄が私にとんでもないことをしていたので、父が兄をボコボコに蹴りました。そのあと、別々の部屋にされたんです。でもそれだけで終わりました。被害者として納得がいかないのは、兄の部屋にはテレビ、ビデオ、ファミコンが全部あるんですよ。私のほうは何もない畳と本棚だけの部屋で、差をすごく感じましたね。
自分がされてることはすごく異常なことだと思っていたんですが、それ以来家族はそのことに触れないし、私の具合が悪いのもただ「エリコは体が弱いから」みたいになってしまいました。実際、虐待を受けると体の免疫力が下がるらしいんですよ。小学校の時は年に何回も風邪をひいて、ずっと治らないこともありました。
渋井 家では性的虐待をされ、学校でもいじめられてという状況下だと、自傷行為をしてしまう人も多いと思うんですが、どうでしたか?
小林 中学時代はリストカット自体を知らなくて何もしてなかったんですけど、高校時代は、自宅で勉強中に教科書を引き裂いて口に入れて噛み砕くという行為をしていました。死にたい人って、起きた瞬間から死にたいんですよ。朝起きて夜寝るまで死にたいし、夜、目をつぶっても眠れないので、意識がある間、24時間死ぬことのみを考えるという感じでしたね。死んだほうが本当に楽だと思いましたね。