KERAの還暦ライブから始まる物語
2023年3月25日の恵比寿ザ・ガーデンホール。開演時間の17時半になると客電が落ち、ショーのスタートを告げるオープニングSEが流れはじめた。
このとき早くも、客席を埋め尽くす僕のようなオールドナゴムファンの多くが、鳥肌を立てていたはずだ。なぜならそのSEは、有頂天が1986年9月にリリースしたメジャーデビューアルバム『ピース』の冒頭に使われていた音だったからだ。
ステージ上には2022年結成のバンド、KERA & Broken Flowersのメンバーを中心にホーンセクションも加わった大編成の演奏陣、そしてコーラスを務めるナイロン100℃の劇団員がずらりと並び、本日の主役の登場を待つ。ステージ背面のスクリーンには、現在に至るまでの彼の足跡をたどる映像が流れている。
おもむろにマイクの前に現れた御大を、すべての観客が喝采で迎えた。だが照明が後ろから当たっているため、シルエットしか見えない。 “有頂天モード”を象徴する、ウニのように逆立てたスパイキーヘアだ! ホール左右の壁面に、その姿が影絵となってデカデカと映り、神々しささえ漂う。一転してステージ上をまばゆい光が満たすと、KERAの姿が初めてはっきりと見えた。この還暦記念ライブのため特別に用意したのだろう、真っ赤なパンツを穿いている。そして一曲目の『神様とその他の変種』を歌いはじめた。KERA & Broken Flowersの前身、ケラ&ザ・シンセサイザーズ名義で2007年に発表した曲だ。KERAの伸びやかで自由自在な歌声は、“あのころ”と何も変わりなくて、僕はどんどん気持ちよくなっていった。