まだまだ私は『途中』
本作はかつて香港に存在した “九龍城砦”の風景を再現するため、狭く雑多な路地裏の商店など、誰もがなぜか懐かしさを感じるような古い街並みを残す真夏の台湾でロケを敢行。1か月以上、滞在したという。
「もう、しっかりと生活していました。おしゃれなワンピースやハイヒールも持っていっていたんですけど、最終的には半袖、半パン、ビーサンで、手にはスーパーの袋(笑)。本当に住んでいる感じで過ごしていました」
半数は現地のスタッフ。全員がそろった飲み会はかなり派手で面白かったと振り返る。
「現地で出会った方々がすごく温かくて。『ビッグファミリー』という感じで、現地で打ち上げをした時もものすごく団結力があって盛り上がりました。 台湾でおいしかったのは、酸っぱい白菜の鍋(酸菜白肉鍋)! あと、材料が全部串に刺してある火鍋も! 冷蔵庫に自分で串を取りに行って、火鍋のスープにドボンとつけて煮込んでスタイルなんですが、それが本当においしかったです」
昨年は映画『正体』で日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。また前事務所のクローズに伴い、昨年4月からは新事務所で活動を始めた。新たな環境から見えきたものを尋ねてみると、
「(事務所を)変わったからこそ大きく成長しなきゃいけない、と自分自身には課しています。大きい役、難しい役に挑戦する精神は継続しつつ、さらにブラッシュアップして、みなさんの心に残るようなキャラクターや作品を目指していこうと思ってやっています。
今までもいろんな役をやってきたのですが『もう少し時間をかけて、ひとつの役を掘り下げてみてもいいんじゃない?』と今の事務所の人たちには言ってもらって。
確かに私、『人の5倍、10倍やらなきゃ!』と思っていた部分があったので、はっとしました。そして、丁寧に時間をかけてひとつの役を掘り下げることは、ずっとやりたかったことでもあって。今は、そのスタンスでやっています」
とニッコリ。'14年に本格女優デビュー(『マンゴーと赤い車椅子』)。朝ドラ『あさが来た』('15年)の田村宜役でお茶の間からも愛されるようになって、今年で10年となる。
「目標は、やっぱり忘れられない作品を残すこと。日々を研ぎ澄ませながら過ごすことは、今までやってこられたかなと思っていて。『頑張ってきたよ』と、自分の背中をポンポンしてあげたい気持ちはありますね。でも、まだまだ私は『途中』だと思っていますよ」
吉岡里帆の『途中』の先にあるものが、とても楽しみだ。
取材・文/池谷百合子 撮影/入江達也