桜木さんと大竹さんの“ご縁”
――お二人の交流がどんなところから始まったのかうかがってもいいですか。
桜木 知人から紹介していただいたんです。初めてお会いした時に大竹さんにすき焼きをご馳走になったんですけど、緊張してなかなか食べられなかったですね。初対面で、正面に大竹さんがいらっしゃって。
大竹 すっかり忘れてました。言われてみればそうだったかもしれない。
桜木 最初はちょっと怖かったんですよ。でも、お話ししているうちに楽しくなってきちゃって。二次会でタブレット純さんを呼び出して、盛り上がりましたね。それも楽しくて。
大竹 そうでしたね。何年前だろうね。タブレット純がまだ食べられなかった時代かな。あいつもやっと食えるようになってよかったけど。あいつ、人の懐に入るのがうまいんですよ。俺抜きでも、桜木さんと会ったりしているんでしょう。
桜木 そうそう。北海道でお会いしました。江別まで来てくれたり。
大竹 俺たち、二か月に一回ぐらい飲み会をやっているんだけど、最初の頃はタブレット純が酒を飲みたいからという理由だったんです。大竹が金を出すから、タダ酒が飲めるというんでね。その飲み会に来たのが武田砂鉄とか、高橋源一郎とか。
桜木 錚々たる面々ですね。
大竹 何回かやってるうちに恒例になったんですよ。
桜木 タブレット純さんは邪心がないんですよね。ギトギトしてないですもん。
大竹 いや、裏は魂胆だらけだと俺は思ってるけどね(笑)。魂胆だらけなんだけど、それが嫌みじゃないというか。それで歌がうまいじゃない。
桜木 あの声を出せる人はあまりいないと思う。
大竹 そうなんだよ。歌わせると、なかなかの歌なわけよ。そのうちに、静かーに、静かーに人気が出てきてさ。加藤登紀子さんのリサイタルに呼ばれて歌ったりもして。
桜木 不思議ですよね。ご縁の賜物を見続けている感じがしますね。私も大竹さんにすき焼きをご馳走になった後、ご縁ができて、文化放送の「大竹まこと ゴールデンラジオ!」にゲスト出演させていただいて、いまもこうしてお世話になってます。
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』が生まれた時
――ご縁といえば、桜木さんの新刊『情熱』の一編「ひも」が、大竹さんのお話からヒントを得たとうかがっています。
大竹 「ひも」、読ませていただきました。
桜木 ありがとうございます。
大竹 あんなじじいのヒモっている? 七十幾つだっけ、設定が。
桜木 七十四歳ですね。
大竹 しかも、老人ばかりのホストクラブがあって、店の名前が「老人俱楽部」。すごい設定になっちゃったなと思いながら読みました。
桜木 大竹さんに会うと、必ず何か、「あ、これ書けるかも」という小説のタネがいただけるんです。
大竹 それが不思議なんだよね。俺、ろくなこと言ってないよ。桜木さんのどこかに、俺のくだらない話の何かが触れるんだろうけど。
桜木 くだらなくないんですよ。大竹さんと会ってお話しすることが、小説のヒントをもらう目的になるのは嫌だなと思ってるぐらい、いつも刺激をいただいてます。お話しすることをお仕事にされているから、瞬間的に、話すことを振り分けていらっしゃるな、というのが分かるんです。
大竹 そんなことしてんの? 俺。記憶にない。
桜木 無意識なのかもしれないんですけど。
初めてラジオにゲストで呼んでいただいた時に、大竹さんが目で「いいか、次行くぞ、行くぞ」って問いかけてくるのが分かったんです。きちっと返さなきゃいけない、と。目を見て、ちゃんと返してこいよというのが伝わってくるんですよ。
大竹 いや、そんな脅迫みたいなことしてないよ(笑)。
桜木 もちろん脅迫じゃないですけど。これからどんな言葉が来るんだろう、「よしよし、絶対受けてやるぞ」って、レシーブの準備を心の中でしてます。それで、ある時に釧路の話になったんですよね。大竹さんが釧路にお仕事で来た話をしてくださったんです。
大竹 十八歳の頃ね。
桜木 たぶん「銀の目」だと思うんですけど、釧路に大箱のキャバレーがあって、大竹さんが十代の時に営業に来たと。ちょうどお正月を挟む期間で、東京に帰るわけにもいかないから、冬の海を見に行ったそうなんですけど、その時のメンツが「俺と師匠とブルーボーイとストリッパーの四人なんだ」って。
それを聞いてすぐに「すみません、そのタイトルで小説を書いてもいいですか」とお願いして、『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』という一冊になったんです。タイトルだけでもう小説になるなって。ありがたかったです。
大竹 あっという間に本になってびっくりしましたよ。『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』で、みんなで墓参り行くところがあったよね。名字が同じだからここでいいや、みたいなところをよく覚えてる。
桜木 名字が同じ他人の墓にお骨を入れるんです。名字が同じならいいやって。
大竹 そうだった。他人の墓にね。あのシーンは覚えてるな。くだらなくて。
桜木 あそこ、書いてて私も笑ってしまいました。
大竹 俺が話したのは、何にもない釧路の海を見に行って、三分で寒いって帰ってきちゃったという話じゃない。
桜木 そうそう。それを聞いてて、それはラストシーンだろうなと思いました。
大竹 すごいよね。設定はちょっと変えていて、地元の照明係の男の子の話になってたけど。すごく面白い小説でしたよ。
桜木 ありがとうございます。大竹さんと話すと、「こんな話どうだ」って内容を振られるわけじゃないんだけれども、引っかかる言葉がたくさんあるんですよね。「ひも」もそうでした。
大竹 「ひも」も、そんな大した話をしたわけじゃないんだ。