二〇二〇年十一月号より、『すばる』誌上で三年七カ月にわたって連載された村田沙耶香氏の大作『世界99』が、このたび上・下巻ともに満を持して刊行されました。
村田さんの作品と言えば、私たちが考えている「普通」や「常識」の正体を明らかにしてしまうところが特徴的です。その並外れた鋭さとユーモアは国際的な人気を博しており、『コンビニ人間』は今や四十を超える言語に翻訳されて、多くの読者に衝撃を与えています。
そして、全世界待望の本作では、人間社会の行き着く先が、一人の女性の目線を通じて徹底的に描かれます。「ピョコルン」や「ラロロリン人」など村田さんらしいユニークな発想で形作られた作品世界は、ぎょっとさせられる奇妙さがある一方で、現実世界からの既視感もあり……。
はたして、『世界99』で辿り着いた終着点を、私たちはどう受け止めれば良いのでしょうか。対話者として世界文学に精通する翻訳者であり、新鮮な視点で世界を描く名エッセイでも知られる岸本佐知子氏を、司会者に江南亜美子さんをお迎えし、小説の感想や、執筆のこと、海外での経験など、たっぷり語っていただきました。
司会・構成/江南亜美子 撮影/大槻志穂
岸本 『世界99』はご自身の最長の作品となりますね。『すばる』での連載、お疲れさまでした。
村田 げっそりするほど分厚い小説を読んでいただき、ありがとうございます。これまで雑誌連載の経験がなく、七割は書けたと感じた段階で連載を始めたつもりが、一回の掲載ごとに手を入れるうちにどんどん膨れ、どんどん話が違うほうに逸れていき、いつまで書くのか不安になるほど長引いて、結局三年以上の長期連載になりました。半年ほど滞在していたスイスで書き終えたのですが、スイスの出版業界では連載という仕組みがめずらしいのか、お世話になったパブロさんに「沙耶香はなぜ毎月デッドラインに苦しんでるの」と不思議がられながら書いていました。
岸本 スイスには連載がないんですか?
村田 向こうで誰に話しても、「連載」の意味が通じなくて……。大昔に新聞でやってた人がいたね、と言われました。
岸本 この上下巻になるほどのボリュームも想定外でした?
村田 一挙掲載ができるサイズの作品だと、これは二百かな、三百枚ぐらいになるかなと予測できるんですが、今回は本当にコントロールが利かず、最後まで長さが分からなかったです。すでに掲載された部分は直せないし、校閲さんには主人公の時代設定について今号からこうなりますといった、ひどいご連絡もしました。
岸本 村田さんはよく「小説に連れていかれるほうに進むしかない」といったことを話されていて、そもそも事前に綿密なプロットを立てない作家なのかなと想像します。コントロール不能な状況は慣れてません?
村田 ここまで見通せないのは初めてで苦しかったです。でも連載に苦しむ私を見守ってくれていた友人の朝吹真理子さんに「これは奇書だから気にせず書けばいいよ」と言ってもらい、「奇書だから大丈夫」と自分を励ましていました。
「人を、世界を実験し、誠実に書き留める」村田沙耶香×岸本佐知子『世界99』刊行記念対談
二〇二〇年十一月号より、『すばる』誌上で三年七カ月にわたって連載された村田沙耶香氏の大作『世界99』が、このたび上・下巻ともに満を持して刊行されました。
村田さんの作品と言えば、私たちが考えている「普通」や「常識」の正体を明らかにしてしまうところが特徴的です。その並外れた鋭さとユーモアは国際的な人気を博しており、『コンビニ人間』は今や四十を超える言語に翻訳されて、多くの読者に衝撃を与えています。
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「世界99」の世界設計
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