親が面会にきて、証言台に立ったこと
A子は3年6か月の刑期を終え、現在は配信者として活動している。その持ち前の美貌と、「『好きで仕方なかったから刺した』という理由がエモすぎる」と日本国内のみならず海外にもコアなファンがついており、自身のブロマイドやグッズの販売も行っている。
私は渡邊容疑者が、A子を「羨ましい」と話すのは、「刑期が短かったこと」や「表現者として社会復帰を果たしたこと」を指しているのかと思った。だが、彼女はこう言うのだ。
「あのコは、お母さんが証言台に立ってくれたんでしょう? 教えてください。お母さんって、普通、情状証人として、出廷してくれるんじゃないんですか?」
確かにA子の母親は父親と共に、江戸川区の自宅から小菅にある東京拘置所まで毎日のように通った。法廷にも白いブラウスと黒のスカート姿という〝正装〟で現れて証言台に立ち、娘に対する思いを涙ながらに語った。消え入りそうなその様子は、被告人席のA子だけでなく、傍聴席の人々の涙も誘ったのだった。
「あのコのお母さんは面会にもきてくれて、出廷もしてくれた。結愛ちゃんのお母さんだってそう。私は、あの2人が羨ましい」
それまでのどこかあっけらかんとした様子とは打って変わり、深刻な表情で訴えかけるように話す。
「結愛ちゃんのお母さん」とは、2018年に起きた目黒区児童虐待死事件の犯人・船戸優里受刑者のことだ。渡邊被告は「歌舞伎町の友達」から差し入れてもらった船戸受刑者の著書『結愛へ』を読んだという。
だがその感想は、この事件がいかに凄惨なものであったか、また事件の背景に彼女がDVを受けていたことに衝撃を受けた、といったことではなく、ただ「親が面会にきて、証言台に立ったこと」が胸に響いたと言うのだ。衝撃だった。
「公判前に弁護士が、お母さんに電話して『情状証人として証言台に立ってくれ』と言ったら、お母さんは『ああ、そういうのはいいです』って断ったんです。弁護士が『それで真衣さんの刑期が短くなる可能性があるんですよ』と言っても、『そういうのはいいです』って。
お母さんは私との面会に来ると、優しい言葉を掛けてくれて、差し入れもしてくれるけど、私に事件について聞いたり、今後どうやって罪を償っていこうかという話は一切、してくれない。私が起こしてしまった事件について、一緒に考えていってほしいのに。
お母さんは、私のことや事件について、なんで考えてくれないんでしょう?」
そして、一瞬、黙り込んでからもう一度、言うのだ。
「なぜ、私のお母さんは、証言台に立ってくれなかったのでしょうか」
彼女はひどく傷ついたような表情をして、うつむいた。