セックスって楽しいことばっかだな

渡邊被告の母親の気持ちについては、私は想像をするしかない。渡邊被告の母は、50代前半で私より少しだけ年上。ほぼ同年代だ。渡邊被告と話していると、〝もし、私の先輩である女性ライターが、渡邊被告の母親と同じ立場だったら、私は彼女にどのように声を掛けるだろう〟と考えてしまう。

渡邊被告は公判で自身の生い立ちについて語る際に、「学校にも自宅にも居場所がなくて、小学校高学年から家出をして、ネットで知り合った男性に会いに行き、性行為をする代わりに、泊めてもらうことが増えた」と明かした。また「中学時代の出来事」として自身のSNSにこのように綴っていた。

《中学生、暇な毎日だったから、担任の先生に20代の男の人に車でセックスされましたって、涙出そうな苦しい顔のフリをして言ったら、警察沙汰になって取調べとか受けた、楽しかった。みんな可哀想な風に話しかけて来るのにわたしは『セックスって楽しいことばっかだな』って思った、ちなみに男逮捕された》

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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母と娘は親子でありながらも、当然ながら別の人間である。まだ年若い自分の娘が、性犯罪に巻き込まれ、警察沙汰になる。学校にも行かなくなり、保健室登校となっている。

そういった生活を日常的に送っていたとしたら、母親としてどんなに〝頑張らなきゃ〟という気持ちがあっても、娘がかわいいと思っていても、どう接していいのかわからず、戸惑うこともあるだろう。

そもそも世間からは、子供を産んだ瞬間から「母性」を求められる傾向がある。しかし、それぞれの家庭に個々の事情がある。そもそもどの家でも子育ては一筋縄ではいかないというのが大前提であり、子供が生まれたからといって「母親」になれるわけではない。さらに、渡邊被告の話を聞くかぎりでは、父親は子育てに積極的ではない。そんな中、「母親」であり続けるのはどれだけ大変なことだろう。

渡邊被告は意識してなのか、無意識なのか、こちらの意図を先回りし、私の欲しい答えをくれようとする。それ故に、真意がわかりにくくなるとも感じていた。だから母親についてもどこまでが彼女の「本音」であるのか理解しきれない部分があったのだ。