有名かどうか、どれだけ必要かに関係なく

サー・アレックス・ファーガソンは、歴史上、最も成功したサッカーの監督と言われている。マンチェスター・ユナイテッドを率いた26年間で、38個のトロフィーを獲得。2013年の夏、プレミアリーグで最後の優勝を果たしたのちに、71歳で引退を発表した。

1986年、当時低迷していたチームの監督に就任した際に、ファーガソンは「マンチェスター・ユナイテッドで最も重要なのはクラブの文化だ。クラブの文化は監督が生み出す」と断言し、選手や作戦だけでなく、文化や価値観によってチームの成功が決まると強調した。

「ファーガソン監督の最大の強みはスター選手を移籍させる能力だ」1人のネガティブな人材がチームをダメにしないよう、超一流のリーダーが最優先すべきもの_1
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その価値観は、選手がチームに加わった瞬間から教えこむ必要があり、選手からコーチ、スタッフ、幹部まで、クラブの全員が従わなければならない。

数年前に、私はパトリス・エヴラから話を聞いた。2006年にファーガソン率いるマンチェスター・ユナイテッドに加入し、優勝に貢献した左サイドバックの名選手だ。彼は契約に先立ち、フランスの空港の控室で監督に会ったという。

「サー・アレックスは俺の目を見て訊きたかったんだ。冷徹な目でじっと見つめて、『きみはこのクラブのために死ぬ覚悟はあるか?』って。俺が『もちろんです』と答えると、すぐさまテーブル越しに手を差し出して、『ようこそ、マンチェスター・ユナイテッドへ』と言ってくれた」

ファーガソンは、クラブ内に強くて団結した文化をつくればピッチで勝利を収めるチームとなり、長期にわたる成功を築けると考えていた。はたして、そのとおりだった。これほどの安定性、一貫性、成功を武器にチームを率いた監督は、後にも先にもいなかった。

ファーガソンの哲学は、個々の選手にチームの精神、文化、価値観を邪魔させないとの一言に尽きる。記者会見で「クラブより偉大な者はいない」と言い放ったことは有名で、プレーの良し悪し、有名かどうか、どれだけ必要な選手かということには関係なく、「ユナイテッドのやり方」を体現していなければ、とつぜん移籍させることもあった。