たとえ絶頂期にある選手でも移籍させた

この数年のあいだに、私はかつてマンチェスター・ユナイテッドに所属した5名の選手にインタビューをする機会があったが、ファーガソンの最大の強みはスター選手を移籍させる能力だと、全員が口をそろえた。たとえ絶頂期にある選手でも。

スポーツでもビジネスでも、通常はこれほど大胆な決断を下す勇気、信念はなかなか見られるものではない。文化に馴染まないという理由で中心となる従業員を解雇するのは、いささかやりすぎにも思える。

だが、私がこれまでにインタビューした超一流のリーダーたちは、才能に関係なく、1人の「腐ったリンゴ」が周囲に悪影響を及ぼすことのほうが、より問題であると本能的に知っていた。それはスポーツ界でもビジネスでも同じだ。

「最も難しかったのは、従業員の解雇を学ばなければならなかったことだ。だが、会社のインテグリティ(誠実さ)やチームの文化を守るために、そうしなければならなかった」
リチャード・ブランソン

「ファーガソン監督の最大の強みはスター選手を移籍させる能力だ」1人のネガティブな人材がチームをダメにしないよう、超一流のリーダーが最優先すべきもの_2

悪い従業員が仕事に与える影響

『ハーバード・ビジネス・レビュー』は、悪い従業員が仕事に与える影響について調査を実施した。目的は、同僚のあいだでの新しいアイデアや行動の広がり方を理解することだ。

規制当局への提出書類と従業員の不満をもとに行われた調査の結果、不正行為の前歴を持つ新しい同僚に出会うと、職場で不正行為をする可能性が37%高くなることがわかった。驚いたことに、この調査は従業員のマイナス要素が実際に伝染することを示している。

職場における不正行為の相乗効果は1.59倍で、社内で発生した不正行為はウイルスのように広がり、該当の従業員がそのまま会社に留まった場合には、不正行為がさらに0.59件増えると報告されている。

ワシントン大学ビジネススクールの元研究員、ウィル・フェルプスが、妻に職場の状況が改善されたかどうか尋ねると、「今週はヤツが出勤していないから、雰囲気がずいぶんよくなったわ」という答えが返ってきた。

フェルプスの妻が言っているのは、チーム内でいつも個人攻撃をするたちの悪い同僚のことだった。その同僚のせいで、もともと険悪だった職場環境がさらにひどくなったのだ。ところが、彼が病気で数日間休んだときに、不思議なことが起きたとフェルプスは振り返る。