「なぜ副業は禁止なの?」「なぜずっとここにいなくてはならない?」アフリカ・ウガンダの農場で働く読み書きができない警備員が教えてくれた大切なこと
アフリカ・ウガンダの最貧困地域に駐在し、現地住民の自立支援のために荒野に農場を作った田畑勇樹氏。その農場の警備員として現地に住む青年を雇ったのだが、ゲートの前にいて警備するという職務をたびたび放棄することに手を焼いていた。しかし、彼のこうした行動には「仕事の本質」というものが潜んでいた。
著書『荒野に果実が実るまで 新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記』より一部を抜粋・再構成し、ロプカン青年が気づかせてくれた貧困地域の支援で大切なコトを紹介する。
荒野に果実が実るまで 新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記 #3
ロプカンのマンゴー
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警備小屋の裏には数本のマンゴーの木が、路上に咲く花のように遠慮がちに芽を出していた。もちろん無からマンゴーは生まれない。それはロプカンの営みだった。
マンゴー─おそらく路上で販売していたものの一部─を食べた後に、種を大事に取っておいたのだろう。その種を植えるとまた新たな命が生まれる。彼はごく限られた資源しかない中で、ごく自然に、あるものを活かして、その生活を豊かなものにしようとしていた。
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レヴィ=ストロースの言葉を再び借りるなら、どこから採ってきたかわからないようなマンゴーの販売や植樹も、ロプカンの中ではごく自然な「寄せ集めて自分で作る」というブリコラージュの実践だった。
雇用契約のもとで与えられた職務を全うするよう求めるのが私たちの論理だ。しかし、その中でも現場にある道具や材料を拾い集めて器用に生きることが彼の論理だ。どちらが正しくて、どちらが間違っているという話ではない。
私は徐々にロプカンの魅力に惹きつけられていった。「現場にあるものを活かしてプロジェクトを行う」という本当の意味を彼が教えてくれている。
ロプカンが嬉しそうにマンゴーの芽を指さした時、私はシゴト上の大切な何かを受け取った気がした。難しい仮説や理論は横において、目の前にある自然と対話する。そこにはいつも「役に立つもの」が転がっている。地面を見ればロプカンのマンゴーが優しく微笑んでいた。
文/田畑勇樹
荒野に果実が実るまで 新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記
田畑 勇樹
2025年6月17日発売
1,243円(税込)
新書判/272ページ
ISBN: 978-4-08-721367-6
不可能と言われたウガンダ灌漑プロジェクト。
23歳若者の挑戦
大学卒業と同時にNPOに就職しウガンダに駐在した著者は、深刻な飢えに苦しむ住民たちの命の危機に直面。
絶望的な状況を前に、住民たちがこの荒野で農業を営めば、胃袋を満たすことができるのではないかと思い立つ。
天候とのたたかいや政治家たちの妨害など、さまざまな困難に直面する著者。
当時の手記を元に援助屋のリアルを綴った奮闘記である今作は、2024年第22回開高健ノンフィクション賞最終候補作にも選ばれる。
「不可能なんて言わせない」、飢餓援助の渦に飛び込んだ23歳が信じた道とは?