ネットスーパーが目論む収益化のカギ

スーパー側にとっても、結局、「月に1、2回、重たい水とコメだけ送ってもらえばいいや」とお客さんに思われると大変です。粗利が低いものしか売れず、まして購買頻度が下がってしまうと、非効率で物流コスト割れしてしまいます。普段使いで、利益が出る総菜などもしっかり買ってもらえることが収益化のカギです。

この問題をクリアしたネットスーパーが取り組んだのは、まさに「信頼」の獲得であり、「ブランド」の確立でした。冒頭の西友は「品質と鮮度へのこだわり」を掲げていますが、こうした取り組みの中からユーザーの信頼を勝ち得たのではないでしょうか。

また近年では、イオンが2023年7月にサービスインしたネットスーパーGreen Beans(グリーンビーンズ)もReliability“安心”を掲げています。同社によると、農産品の鮮度保障のために、運営するイオンネクストは、産地から個別のお宅までエンドツーエンドで直接つなぐサプライチェーンを再構築したそうです。

イオンが2023年7 月より展開するGreen Beans
イオンが2023年7 月より展開するGreen Beans
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とりわけ、ECを店頭販売の延長ではなく、新たな事業創造のチャンスとして位置付け、リアルではできなかった新しいことへの挑戦として、ネットスーパーをさらに進化させようとしています。

コロナを経て、ネットスーパーに取り組む食品スーパー企業はさらに増えてきています。背景には日本の社会構造変化があり、短期的には都市で共働き世帯が増加し、中長期的にはスマホ慣れした世代が高齢者になります。すると今後一層、ネットスーパーのニーズが高まると考えられるからです。

足元では、コロナ明けでリアル回帰が起こっています。未来を見据えたネットスーパーのチャレンジは続きますが、ここで優位性を築き上げた企業が10年、20年先の流通のインフラを支える企業になるのです。

文/中井彰人 中川朗

『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
中井彰人 中川朗
『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
2025年4月25日
1,848円(税込)
216ページ
ISBN: 978-4295410874

グローバル化から離れ、ガラパゴス化した業態。
海外からも注目される独自進化した「小売」の今。


生活に密着している業界だからこそ、その進化から目を離せない。

「小売」というと、製造業がいて、問屋があって、というイメージだが、実態はもっと複雑で、従来型の「仕入れて売る」という業態もあれば、もっと総合的なかたちですべてのサプライチェーンを内製化している企業もある。「小売」という業態は日本独自のもので、海外では見かけないビジネスモデルといっていい。消費者サイドから見ると、「便利で安くてサービスがいい」ということになるが、経営視点で見ると、「非効率・過剰サービス・利益が薄い」ということになる。本書は「知っているようで、あまり理解されていない」小売ビジネスについて、その歴史を紐解き、小売のおもしろさや魅力を伝える一冊として最適な入門書になっている。

(目次)
近現代史から学ぶ日本市場のガラパゴスな世界
チェーンストアから学ぶ小売の栄枯盛衰の世界
食品ディスカウンターに学ぶ覇権争いの世界
変化対応力から学ぶ小売専門店の世界
ネットスーパーから学ぶECの世界
インバウンド需要から学ぶアウトバウンドビジネスの世界
メーカーと問屋から学ぶ物流システムの世界
データから学ぶ小売DXの世界
最新テクノロジーから学ぶ未来の小売世界

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