③飲酒など自制心が働かない状況における性暴力(8件)

アルコールが入った状態で暴れる父親が娘に性暴力を働くようなケースである。暴れる父親を母親が制止できず、娘への性暴力を黙認する母親たちを共犯視する子どもからの被害報告も多い。

加害者の社会的地位はさまざまであり、医師や弁護士、公務員等の一定の社会的地位を有する人々も少なくないが、彼らが社会的に大きな影響を及ぼすほどの人物であったかといえばそうではなかった。

実父の子どもを5人出産した29歳女性による尊属殺人が刑法に及ぼしたもの「愛情を利用」「社会的な劣等感のストレスの捌け口」…近親性交の闇_3
すべての画像を見る

むしろ、エリートの中でも出世コースを外れていたり、同業者の中では収入が低いなど、社会での不全感が妻子の支配に繋がっていると思われるケースばかりであった。

一方で、妻や家族に経済的に依存せざるを得なかったり、非正規雇用という不安定な身分で十分な収入を得られないストレスを抱えている男性加害者も近年増加しており、父という権力の裏側の社会的弱者性にも焦点が当てられるべきである。

写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock

近親性交 語られざる家族の闇
阿部 恭子
近親性交 語られざる家族の闇
2025/6/2
1,100円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4098254934

それは愛なのか暴力か。家族神話に切り込む

2008年、筆者は日本初となる加害者家族の支援団体を立ち上げた。24時間電話相談を受け付け、転居の相談や裁判への同行など、彼らに寄り添う活動を続けてきた筆者がこれまでに受けた相談は3000件以上に及ぶ。

対話を重ね、心を開いた加害者家族のなかには、ぽつりぽつりと「家族間性交」の経験を明かす人がいた。それも1人2人ではない。筆者はその事実にショックを受けた。

「私は父が好きだったんです。好きな人と愛し合うことがそんなにいけないことなのでしょうか」(第一章「父という権力」より)
「阿部先生、どうか驚かないで聞いて下さい……。母が出産しました。僕の子供です……」(第二章「母という暴力」より)
「この子は愛し合ってできた子なんで、誰に何を言われようと、この子のことだけは守り通したいと思っています」(第三章「長男という呪い」より)

これほどの経験をしながら、なぜ当事者たちは頑なに沈黙を貫いてきたのか。筆者は、告発を封じてきたのは「性のタブー」や「加害者家族への差別」など、日本社会にはびこるさまざまな偏見ではないかと考えた。

声なき声をすくい上げ、「家族」の罪と罰についてつまびらかにする。

amazon