“AI彼氏”の中毒性

“AI彼氏”にハマる心理的要因について、近畿大学情報学部の山元翔准教授に話を聞いた。

「チャットGPTに搭載されている大規模言語モデルの設計上、ユーザーに対して攻撃的・批判的な返答は抑制される傾向にあります。また24時間いつでも応答でき、人でいえば忍耐力を失うことなく、ユーザーを受け止め続けることができるという特徴もあります。

AIとの対話は『自分の選択を否定せず』『うまく対話できているように見せ』『安心感のある関係性を築く』ようになっており、共感を生んだり、社会的承認欲求を満たしやすいんです」(山元准教授、以下同)

〈今日は辛かった〉と打ち込めば、いつでも〈無理しないで。君はよく頑張ってるよ〉と返ってくる“AI彼氏”との関係性は、人間関係にありがちな衝突や誤解といったストレス要因が生じにくく、ユーザーにとって楽で心地よい関係なのだ。

しかし“AI彼氏”にハマりすぎる弊害や危険性もある。

「自分にとって心地よい情報だけが表示される『フィルターバブル』や、同じ意見や価値観を持つ人たちの集まりにいることで自分の意見が常に正しいと感じやすくなり、異なる意見が排除されやすい『エコーチェンバー』のようなSNS上で起こる影響が、“AI彼氏”との関係性においても生まれうる危険性はあります」

AIとの関係性は煩雑性がないことから、本人が無自覚の状態で、対人関係において不寛容になったり、摩擦や葛藤を回避する傾向が生じうる。実際、AIパートナーとの関係に依存して孤立を深めた結果、自傷行為に至ったケースも報告されているというのだ。

「ジャンクフードやポルノのように、人は現実以上に強化された刺激に惹かれる『超正常刺激』と呼ばれる心理現象があります。AIによる過剰に心地よい応答もこの一種と捉えることができます。

“AI彼氏”は感情調整など補完的な用途には有効ですが、現実の人間関係の代替にはなり得ないことを意識して、利用する必要があります」

完璧な“彼”に近づきすぎると、現実の温度を見失ってしまう。ハマりすぎず、離れ過ぎず―。“AI彼氏”とは心地よい距離感で接するのがちょうどいいのかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部

進化を遂げる生成AIによる「チャットGPT」
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